(写真=時事通信)

 イギリスの諺に“人生の壮年期を迎えて得た友は生涯の宝となる”という言葉がある。私にとって佐治信忠氏はそれに近い存在である。氏の紹介文を依頼されたが、そう易々と語れる人となりではない。経済界の中での高い評価と業績は聞きおよんでいるが、そのようなことを私に書く能力はない。長い歳月ともに歩んできた印象を作家として一言言わせてもらう。

 佐治信忠は情の人である。これに遂きる。情と書けば、情(なさけ)と思う人もあろうが、それもあるがむしろ情念、情緒を生きる第一義としていると思われる。拙い私の小説作品の中で氏が私の作品に通底するものは何かを語った時が、まさに情念、情美を指摘された。私はいささか驚き、この人は、人間の孤独、哀切を見つめた時間があるのだと思った。

 情念とは人間の根本である。氏の強靭さ、サントリーの強さは一にも二にも、この情念のつながりにある。仕事、人を動かす原動力が何たるかを、この人は孤高の中で学んだ人である。