(写真=五十嵐隆裕)

 10年ほど前だった。テレビの収録で楽屋を訪れた時、「青」と「赤」のペアルック姿の手塚夫妻に挨拶をしたのが最初の出会いだった。僕は、彼らの手掛けた「屋根の家」が大好きで、いつか協働できないかと願っていた。

 その数年後、東京・立川の「ふじようちえん建て替え計画」にクリエイティブディレクターとして携わることになった。考えたのは「園全体を巨大な遊具にしよう」というコンセプト。ふと、手塚夫妻の姿が頭に浮かんだ。初めての協働作業で完成したのが外周183m、内周108mのドーナツ形をした常識外れの園舎。子供が園舎をぐるりと全速力で走り回れるこの作品は、日本建築学会賞など多くの賞を獲得し、世界的にも高い評価を受けた。

 実はその後、僕の事務所兼自宅も手塚夫妻にお願いした。建築は、予算や容積率などの数字や法律に縛られ、理想と現実との乖離にさらされる。ある時、「仕方がない」と妥協を口にしたことがあった。その時、「そういうことを言っちゃいけない。できないことなんかない」と逆に諭された。同じクリエーターとして、ハッと気付かされた。

 3・11は、僕らクリエーターが無力感に打ちひしがれた日だった。しかし、その後間もなく、手塚さんも僕も、自然と被災地に足を向けていた。彼らは立ち枯れた杉の大木を使って、幼稚園を再建した。強度が足りない木を使うという困難があったと聞く。しかし、手塚さんは「できないことなんかない」と、きっと現場で叫んでいたに違いない。そんな不屈の信念の宿る幼稚園は、これからの復興の道標となるのだろう。