(写真=千倉志野)

 片田江舞子というベンチャーキャピタリストの意義は、東京大学で生物学の博士号を取った正真正銘の科学者ということだ。

 2005年春、私は特殊ペプチドを効率的に合成する技術を開発した。創薬の世界に革命を起こす可能性を秘めたこの技術は、極めて複雑難解でもある。ライフサイエンスの基礎がない人には、理解することさえ難しかっただろう。だが、彼女はその技術を理解したうえで、その先の可能性までをも見抜き、この技術を活用する東大発ベンチャー、ペプチドリームの設立に導いた。

 この国の投資家は、薬になりそうな化合物がなければ、バイオベンチャーに投資しようとはしない。だが、彼女は目に見えるモノではなく、技術によって生み出される未来を評価して、エッジキャピタルによる出資への道を開いた。あの時、彼女が研究所に足を運んでいなければ、ペプチドリームがこれほど世界的に注目を集める存在になることはなかったかもしれない。世界の人々が夢を見る薬を生み出す大きな一歩を踏み出してくれた。この貢献は極めて大きい。

 彼女のもう1つの意義は、博士学位者の新しいキャリアパスを切り開いたことだ。常勤の研究職に就けない博士学位者は少なくない。だが、博士号を持つ人材の能力を求めているのは、実は、研究の世界だけではない。彼女は東大大学院理学系研究科で網膜の研究をしていた。その道をあきらめて転身した背景には様々な事情があったと思う。だが、その決断が間違いではなかったことを証明した。

 片田江のような、科学に対する深い知見を備えている人材がベンチャーキャピタリストになれば、日本のバイオ業界は飛躍するに違いない。