(写真=Bloomberg via Getty Images)

 孫 正義、旧姓安本正義は、JR鳥栖駅(佐賀県)に隣接する朝鮮部落に生まれ、豚の糞尿と密造酒の強烈な臭いの中で育った。

 その在日3世が、世界長者番付で例年日本人ベストテンの中に入る成功をおさめた。孫が韓国人の誇りを忘れない男だということは、家族の猛反対を押し切って日本に帰化した時、韓国姓を捨てなかったことでわかる。

 私たちはなぜ孫正義から目が離せないのか。孫の軌跡に日本人では成し得ない物語を見ているからである。日本人は日増しに強まる閉塞感の中で、いまだに未練がましく高度経済成長の再来という“地上の夢”を夢想している。だが、孫は“地上の夢”をはるかに離れて、成層圏を突破しようとしているようにさえ見える。

 孫の話が説得力を持って迫ってくるのは、彼が自分の言ったことを確実に現実化させてきたからである。孫はベンチャービジネスの旗手と見られがちだが、その見方は誤りである。彼が情熱を傾けているのは、それとは正反対のファンダメンタルな分野ばかりである。

 携帯電話、インターネットなどの情報通信、そして「3・11」をきっかけにして、脱原発の自然エネルギー事業にも舳先を切り始めた。

 その勢いは、さらに加速している。孫は国内携帯電話4位のイー・モバイル、米携帯電話3位のスプリント・ネクステルを買収する方針を相次いで明らかにした。買収規模は2兆円にのぼる。

 こうしたダイナミックな動きが孫に事業家という名にふさわしいスケール感と、バクチ打ちに近いリスキーさを付与している。それは日本の既成勢力にとって、目障りな活動であり、孫本人にとっても危険な賭けである。やはり孫からますます目が離せない。