(写真=ロイター/アフロ)

 スティーブ・ジョブズの前にジョブズなし。ジョブズの後にジョブズなし。彼のような傑人は二度と現れないだろう。

 最期まで彼らしい生き方だった。10月5日、息を引き取る直前まで、CEOのティム・クックを呼び、次の製品構想について話し込んでいた。自分の世界観にこだわり、それを具現化するために執念を燃やし続けた。スティーブほど製品を愛し、細部にまでこだわり抜いた人間を私は知らない。

 「iPhone」のデザインもそうだ。筐体の背面が光の当たり方でどう映るか。そこまでこだわり、納得するまでスタッフに作り直しを命じる。ソフトの細かい反応も、自分の直感に合っていなければ気が済まない。たとえ消費者に見えない部分であっても。そして、製品は芸術の域へと昇華していく。

 スティーブと本音で語り合うようになったのは1995年頃だっただろうか。彼がアップルの経営者の座を追われた後、復帰を模索していた時期だ。当時のスティーブは、目はギラギラと野心に燃えていたが、心は満身創痍だった。

 「スティーブなきアップル」は迷走していた。取締役だったオラクルCEOのラリー・エリソンは、取締役会で「ジョブズを呼び戻すべきだ」と机を叩いた。「復帰への作戦会議」と称して、エリソンの家でスティーブと私と3人で食事をしたことがある。「誰もがパソコンを持つようになるよ。インターネットが、世界を変えていく」。ワイングラスを傾け、庭に咲く桜が散りゆく様を見ながら、夜更けまで語り合った。今でもその夜のことは、鮮明に思い出すことができる。

 その後、スティーブはアップルに復帰した。「iMac」「iPod」そして「iPhone」。彼が熱く語った通りの世界観を、形にしていった。何と美しい製品なのだろうか。しかし、そうした“芸術”を生み出しながら、彼の命は削られていった。

 今、スティーブはいない。だが、その美しい製品は私たちの手元に存在している。

 アップル復帰後に彼が手がけた有名なテレビコマーシャルを思い出す。

 「Think Different」

 歴史に名を刻む人物は、“その他の人間”とは全く違う生命体なのかもしれない。想像を超える発想を生み出す。そして絶えず世の中に問うことになる。だから、「Crazy」と批判されることもある。

 それでも自分を信じる――。そうして生まれたモノだけが、世界を変える力を持つのだ。ジョブズの生き方が、それを証明してくれた。彼がこの世に遺したものは、優れた製品だけではない。彼の生き方、そして考え方から、一体、我々は何を引き継いでいくべきなのか。

 今夜も、あの夜のように、夢の中で彼と語り合えれば。