(写真=Getty Images)

 世界の防壁が崩落し、その黒々とした亀裂から「外部」が滲出してくる時、それに気づいて壁を補修し、「外部」を押し戻し、世界の秩序を回復することを主務としている人たちがいる。「歩哨」とも「キャッチャー」とも呼ばれる。村上春樹は一貫して、この「歩哨」たちの報われることの少ない仕事を描いてきた。その仕事が果たされたせいで何も起こらなかった仕事。

 『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』も、『羊をめぐる冒険』も、「かえるくん、東京を救う」も、『海辺のカフカ』もそのような働き手の仕事ぶりを描いていた。

 自分の職務を果たし、ささやかな善意を積み、フェアネスを心がける。そういう日常の気遣いが誰も気づかぬところで、そのつど世界を救っている。

 村上春樹を読む時私たちが深く癒やされるのは、それが私たちの日常生活を静かに祝聖しているからである。