(写真=東京電力/時事)

 「フクシマ50」。そんな言葉が欧米メディアを中心にわき上がったのは東日本大震災直後のことだった。冷却機能の停止や水素爆発が繰り返される中で、一時は約50人が現場に踏みとどまり、復旧に当たった。中心で指揮したのは吉田昌郎所長。彼らの行動に世界が驚愕した。

 わずかな人数で暴走する巨大施設を抑える。実は、複雑系の理論に「創発」という言葉がある。個々の小さな相互作用が、ある組織の中では、総和として足し算以上の力を生む現象を指す。経営における創発の代表例が、まさに日本企業の「現場力」である。一人ひとりの愚直な努力や改善が複雑に絡み合い、世界を制する技術力や生産性を生み出してきた。日本の底力だ。

 日本企業のこれまでの躍進は、経営力というより、現場力によって支えられてきた。だが、世界経済が窮地にある今、現場を指揮するマネジメントの能力不足や怠慢は、現場を疲弊させて「敗北」をもたらす。東京電力の本質的な問題も、ここにあるのではないか。