(写真=APF=時事)

 「何とか間に合ったな」。垣内君が今年9月、仏ブザンソン国際若手指揮者コンクールで優勝した時、私はまずこう感じた。指揮者の世界のタイムリミットは35歳。これを超すとコンクールにさえ参加できなくなる。垣内君は33歳というギリギリの年齢でプロ指揮者へのチケットを獲得した。

 野望や熱意をむき出しにする学生が多い中、彼は決して自分の熱意を表に出すタイプではない。良く言えばスマート、悪く言えば押しが弱いのだ。けれど心の中には強い情熱を秘めていたのだろう。指揮者になることを10年以上もあきらめず、貪欲に学び続けた。その結果が優勝に結びついた。

 指揮者にとって最も大切なのはあきらめないこと。自分の求める音楽を実現するために、オーケストラに「No」と言い続けることもある。決して楽な仕事ではないが、そのしぶとさが彼にはある。

 人柄も大きな武器になるだろう。接した時に「素敵な人だな」と感じさせるチャーミングな魅力が奏者の心をつかむ。ついにプロ指揮者の夢を実現させた。一度演奏したオーケストラから「また呼びたい」と思われるかどうか。勝負は始まったばかりだ。