(写真=菅野勝男)

 中西宏明は、昔から「場」作りに長けていた。1969年、私と中西が東京大学工学部3年の時のことだ。当時は大学紛争の真っただ中だった。学生の心が学問から離散しかかった時、中西は学友を集め、議論の場を設けようとした。共産党からノンポリまで一人ひとりに声をかけて口説いていく。くせのある者ばかりだったが、不思議と中西の言葉に揺り動かされ、集まってきた。決して自分の考えを強要しない。だが、人を1つの場と目的に導く強い引力を持っている。

 中西は今、大手電機・日立製作所のトップとして、早急に新たな事業の「場」を作らなければならない。昨年創業100年を迎えたこの大組織は、日本のモノ作りを象徴する存在でもある。舵取りは、決して易しいものではない。

 多くの大企業の経営者は、過去のしがらみを断ち切れずにさまよう。だが、中西は違う。何を捨てて、何を残すべきか、抵抗を排して判断が下せる。先日浮上した統合の報道を見ても、中西は社名にさえ固執していないように思える。思考の中にあるのは「次の日立の100年をどう創るか」、ただそれだけである。