鈴木会長が口にした覚悟
インド政府はEVの販売比率を30年に30%に高める目標も掲げており、達成するにはスズキはEVを150万台売る必要がある。EV対応が決して進んでいるとは言えない同社にとって大きなハードルだ。鈴木修会長も株主総会で「これは大挑戦でございます」との表現で、覚悟を口にした。
今や自動車業界は年1000万台の販売規模でないとグローバルで戦えないといわれる。そんな中で、世界販売が300万台超で、世界10位クラスのスズキが選んだ米中2大市場を捨てる経営。市場の選択と集中で生き残りを目指す自動車メーカーの先鞭をスズキがつけるかもしれない。
(中国産業取材班)
産業構造の転換が告げる外資合弁の「終幕」
スズキと合弁を解消する重慶長安汽車は中国では第一汽車や東風汽車、上海汽車と並ぶ国有自動車大手に数えられる。
歴史は古い。源流は清朝末期に中国が西洋文明を取り入れて国力増強を目指した「洋務運動」にかかわった企業だ。そんな成り立ちも影響しているのか、長安汽車はスズキだけでなくマツダや米フォード・モーター、仏グループPSA(旧プジョーシトロエングループ)とも合弁を組む。海外技術の導入で力をつけ、今では独自ブランド車も手掛けられるようになった。
もっとも、世界の自動車メーカーがひしめく中国市場だ。伝統企業といえども、消費者の選別眼は厳しい。
長安汽車も足元では苦戦する。今年1〜7月の販売台数は約133万台で、前年同期から16%減少している。スズキとの合弁会社、重慶長安鈴木汽車の販売不振だけが原因ではない。フォードとの長安フォード汽車も1~7月期の販売が約25万台と、前年同期の42万台から激減。独自ブランド車も、民営大手の浙江吉利控股集団に水をあけられた。いずれも魅力的な新車を出せていないことが「敗因」だ。
押し寄せる変化の波
伝統企業を取り巻く環境は厳しさを増す。EV(電気自動車)やIoT(モノのインターネット)、自動運転といった自動車技術の変革を背景に、IT(情報技術)を母体とする企業などがこぞって自動車事業に参入。さらに政府はこれまで中国企業との合弁が必須だった外資系メーカーに対し、100%出資での進出を認め、自国企業が外資系企業と真っ向勝負する環境を整え始めた。その規制緩和策を利用して、米EV大手のテスラは早速、上海に独資での工場建設を発表した。

こうした変化を受けて、長安汽車は今年4月、「第三次創新創業計画」と呼ばれる事業計画を公表した。2020年までにEVなどNEV(新エネルギー車)の専用プラットフォームを完成させるなど、事業モデルの全面転換を新たな「創業」と位置付けた。
この新しい戦略に沿うかのように長安汽車は中国国内で「仲間作り」を急ぐ。新興EVメーカー、上海蔚来汽車(NIO)とは共同出資会社を設立。EVなどのNEVやインターネット接続環境を整えたコネクテッドカーの事業で協業を深める。通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)やEV大手、比亜迪(BYD)とも手を組んだ。自社にない技術を取り込む狙いが鮮明だ。
スズキとの合弁解消に長安汽車が合意したのも、こうした戦略転換が背景にありそうだ。「伝統的な自動車企業は(経済や産業構造の変化の)影響を真っ先に受ける。イノベーションを起こさなくては存亡の危機にひんする」。長安汽車の朱華栄総裁は中国メディアの取材にこう答えている。
いくら「育ての親」であっても今、求める技術がなければ利用価値はない──。転換する産業構造が旧来の外資合弁の役割を終わらせようとしている。
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