トヨタやホンダなど日系各社は将来の市場拡大をにらんで増産投資に動くが、スズキは逆の道を進む。昌河スズキの保有株は今年、中国側の合弁相手にすべて譲渡。長安スズキの販売ディーラーには新車の投入計画も示されず、「スズキは撤退するのでは」(現地ディーラー経営者)との観測も広がっていた。
中国紙の報道では、中国東北部の経済都市、遼寧省瀋陽に構えていた長安スズキ系列の大規模店舗が今月に入って閉店。首都・北京では、スズキ車の販売では生き残れないとして、韓国・現代自動車系の販売店を「兼務」する長安スズキ系ディーラーも出てきたという。
NEV規制も大きなハンディ
中国政府が19年から導入する「NEV(新エネルギー車)規制」も大きなハンディとなったようだ。自動車メーカーに一定比率でEV(電気自動車)やPHV(プラグインハイブリッド車)などの生産・販売を義務付けるもので、NEVで出遅れている長安スズキにとっては手を打ちにくい。
中国での新車販売は半減
●スズキの販売台数推移 ![]() |
インドが半分以上
●スズキの国・地域別販売台数 ![]() 注:2018年3月期。全体は322万4000台
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中国の需要に合わせた車種展開が難しく、NEV規制への対応も難しい。これ以上、長安スズキに「ヒト・モノ・カネ」を投入してもライバルを追い上げられない──。スズキと長安汽車はそう判断したようだ。長安汽車は当面、スズキ車をライセンス生産するが、それも1~2年先までとみられる。輸入車販売を続ける可能性もあるが、長安汽車でのスズキ車の生産が終われば、スズキは中国の四輪車事業から完全に手を引くことになる公算が大きい。
見逃せないのは、スズキは販売不振が続く米国の四輪車市場からも12年に撤退していることだ。米中2大市場に見切りをつけるスズキ。世界各地に拠点を構えて規模の拡大にまい進することが「勝利の方程式」とされてきた自動車業界の常識を覆すのには十分だ。
そんな「捨てる経営」に勝算はあるのか。スズキが見据えるのはインドだ。
スズキは外資勢としていち早くインドに進出し、1983年から現地生産を始めている。今も約半分のシェアを握り2018年3月期には165万台を販売した。これは中国の約16倍で、日本での販売(67万台)すら上回る。スズキの世界販売の半分以上を占めるインドは、まさに金城湯池。17年に400万台を突破したインド市場はいずれ日本を抜いて世界3位になるのは確実なだけに、スズキはそこで勝負を懸ける。
覚悟は6月に静岡県浜松市内で開いたスズキの株主総会で見て取れた。鈴木俊宏社長はこう言い切った。「インド市場は30年ごろには1000万台規模に成長する可能性がある。そうなったときにも今と同じ過半数のシェアを確保したい」。つまり、インドで500万台以上を生産・販売するというのだ。
これまで慎重なうえにも慎重なスタンスで知られる同社がこうした一見「大風呂敷」を広げるのは異例のこと。実現するにはスズキとしては過去最大規模ともいえる経営資源の投下が必要になるのは間違いない。
例えば、インドで500万台を売るには販売するモデル数を今の16モデルから「30モデル以上にする必要がある」とインド子会社マルチ・スズキ・インディアの鮎川堅一社長は話す。「セールスマンも今の4万人を12万人くらいまで増やさないといけない」。新工場の建設ペースも上げなければならず、投資負担もこれまで以上に増す。
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