シンガポール企業の強み

 そんな現地の多種多様なニーズを拾い上げ、着実に事業化していくのが、グラブに集う多種多様な人種・人材だ。もともと、グラブが本社を置くシンガポールはアジアと欧州の結節点。交通の要所として、様々な国籍の人々が行き交う。だからだろう。シンガポールの金融街のど真ん中にそびえ立つ高層ビル内のグラブの本社を訪れると、中国人からインド人、マレー人、欧米人と、多種多様な人種の社員がいる。米シリコンバレーのスタートアップと比べても、はるかに国際色豊かに見えた。

 様々な文化的背景を持つ人材が交じり合うことで生み出す現地に根ざしたサービス。最大のライバルだったウーバーをASEAN市場から退かせたグラブは今後、どんな成長戦略を描くのか。世界制覇をもくろんでもおかしくないが、意外にも基本戦略は「ASEANから出ない」と控えめだ。

 ASEAN発の企業だからこそ地元のニーズを理解できる。逆に地元ニーズを理解できない他地域に進出しても勝てない。そう割り切っている。成長戦略の柱はあくまでもグラブペイを核に提携先を増やし、域内でサービスの幅を広げていくことなのだ。

 その国の消費者が求めるサービスやモノが何なのかを突き詰める──。グラブは多種多様な人種・人材を活用しながら、そんなビジネスの基本を忠実に実践してきたといえる。

 多様な民族を抱え、各国で経済発展のスピードが異なるASEANだからこそ光るその実践力。ASEAN市場の攻略を目指す日本企業にとっても、グラブの成長の足取りは、成功の条件を探る上でのヒントになる。

(池松 由香)

インドネシアに強力なライバルあり
今後4年で市場は3倍以上に
●SEAN6カ国のオンライン商取引市場規模
出所:フロスト・アンド・サリバンが分析したデータを基に編集部で作成

 グラブが足場を築く東南アジア諸国連合(ASEAN)市場のEC(電子商取引)市場は急成長を遂げている。米調査会社のフロスト・アンド・サリバンによると、2017年のASEAN6カ国の消費者向けEC市場は204億米ドル(約2兆2000億円)で、21年には656億ドル(約7兆1000億円)に達する見通しだ。中でも急成長が見込めるのが4年で市場が4倍以上になるベトナム。市場規模という意味では、2億6000万人の人口を誇るインドネシアが最も大きい。

 そのインドネシアにはグラブの強力なライバルがいる。15年に二輪タクシーを呼べるスマホアプリを提供し始めたゴジェックだ。同社はインドネシア発の企業で、配車サービスの他にも家事の代行やマッサージの手配など、地元に根付いた幅広いサービスを展開。40万人超のドライバーを抱え、日常的に2000万人以上が利用しているといわれる。

 グラブには中国・滴滴出行やソフトバンクグループ、米ウーバーテクノロジーズなどが出資しているが、ゴジェックも負けてはいない。米アルファベット傘下のグーグル、中国・騰訊控股(テンセント)、京東集団(JDドットコム)などが出資。米調査会社のCBインサイツによれば、ゴジェックの推定企業価値は18億ドルにのぼる。60億ドルのグラブには及ばないが、インドネシア初のユニコーンだ。昨年末には地元のフィンテックベンチャー3社を買収。決済サービスにも力を入れ始めた。

 これまではインドネシア国内でサービスの拡充に専念してきたゴジェックだが、いよいよ海外展開に踏み出す。5月24日には5億ドルを投じてタイ、フィリピン、シンガポール、ベトナムの4カ国に進出すると発表した。グラブとの顧客争奪戦が激しくなるのは確実だ。

INTERVIEW
ミン・マー社長に聞く
目指すはスマートモビリティーの要

 私はソフトバンクから来ましたので、グラブの経営者であると同時に投資家の目でもグラブを見てきました。グラブは「世界のモビリティー社会を支えるデータ」という観点から見ても、非常に重要な役割を果たす企業になると思っています。

 これから自動運転などのスマートモビリティーが普及していきます。その時に欠かせないのが、細かな道路や住宅を含んだデジタル地図データや人々の移動データ、クルマの走行データなどです。グラブは昨年11月に10億件の乗車件数を達成していて、現在は1日平均600万件の乗車があります。

 グラブで得られるこうしたデータは今後、自動車産業がクルマの開発に役立てられるのはもちろん、政府や地方自治体が都市計画を立てる上でも重要な役割を果たすでしょう。

 まずグラブは、人々の移動をグラブのアプリ一つで手配できるようにします。

 例えば、インドネシアでは、自宅から二輪タクシーを呼んでバス停へ行き、バスで駅に着いたら電車に乗り、目的の駅に着いたらまた二輪タクシーを拾って目的地へ行く。こんな移動を通勤などで日常的にしています。ここでわずらわしいのが、乗り換えにかかる手間と時間です。

 そこでグラブでは、ユーザーがアプリを開いて行きたい場所を入力さえすれば、ニーズに合わせて適切な移動ルートを提案し、配車や決済も一括でできる仕組みを導入しようと考えています。実現には鉄道会社やバス会社、各国の政府や地方自治体などから協力を得ることが不可欠です。ロビー活動も必要になりますが、それも地元企業だからやりやすい。じっくり時間をかけてユーザー満足度を高める努力を続けていきます。(談)

モビリティー産業の成長戦略が分かる!

「クルマの未来」を見通す大型イベント「Future Mobility Summit : Tokyo 2018 ~ 自動車からモビリティー産業へ その潜在力と課題」を、11月20日(火)に東京国際フォーラムで開催します。

インターネットやデータ分析などIT(情報技術)を駆使して安全で快適なモビリティー(移動)を提供することが企業の成長のカギを握ります。国内外の経営者や技術者が、最前線の取り組みや今後の可能性を語ります。

マツダの次世代技術について、キーマンの1人である副社長の藤原清志氏が講演。トヨタ自動車社長の豊田章男氏が「7人の侍」と称するうちの1人である取締役・副社長の寺師茂樹氏、東南アジア最大手のライドシェア企業として注目を集めているGrab(グラブ)の地域統括・戦略的自動車パートナシップ担当であるドミニク・オング氏も登場します。このほか、トヨタ自動車との新会社設立を発表したソフトバンク、インドで快進撃を続けるスズキなど、リーディングカンパニーが登壇します。ぜひご参加ください。

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