ソフトバンクがトヨタ自動車に急接近している。10月4日に発表したのは移動サービスの共同出資会社の設立。企業向けの配車サービスなどを足がかりに、将来は自動運転車を使った移動サービスを立ち上げていくという。気が気でないのが、先にトヨタと提携していた通信大手のライバル。業界秩序を壊すソフトバンクに対抗できるか。
日経ビジネス2018年10月15日号より転載

「トヨタから事前に『NTTを裏切るわけではない』と伝えられていたが、うのみにはできない」
NTTグループ関係者が疑心暗鬼になっているのは、ソフトバンクとトヨタ自動車が10月4日に発表した提携内容だ。両社で新会社「モネ・テクノロジーズ」を設立。まず、企業や自治体と組んでオンデマンド配車などのサービスを始める。2020年代半ばにはトヨタの自動運転機能を備えた次世代EV(電気自動車)「イー・パレット」を使った移動サービスを立ち上げるという。
この発表に通信業界がざわつくのも無理はない。国内の自動車メーカーと通信会社の協業体制は長らく「トヨタとKDDI」「日産自動車とNTTドコモ」「ホンダとソフトバンク」の3陣営でほぼ固まっていたからだ。
大株主なのに……
中でも気が気でないのがKDDIだろう。トヨタはKDDIの母体の一つである携帯電話会社の日本移動通信(IDO)の設立を後押しし、今もKDDIにとっては京セラに次ぐ大株主だ。16年には通信機能を備える「コネクテッドカー(つながるクルマ)」で必要となるグローバルの通信システムを、トヨタに提供することで合意もしている。
NTTグループも人ごとではない。17年にトヨタとコネクテッドカー分野の技術開発で協業することを決めていた。トヨタにとってはNTTグループの研究開発力を活用しながら、コネクテッドカーの実用化を急ぎたい思惑があったとみられる。
そんなライバルに割り込む形でトヨタと手を結んだソフトバンク。組み合わせ以上に、ライバルが気になるのは、提携の中身だった。通信やクルマといった“土台”ではなく、その先にいる顧客に向けて新たな「移動サービス」の分野で先行されれば、KDDIやNTTは利幅の薄い通信回線を貸し出すことでしかトヨタ向けのビジネスは手掛けられなくなりかねない。
今回の提携はトヨタ側が申し入れたという。ソフトバンクの孫正義会長も10月4日の記者発表会で、「話を聞いて『えっ、マジか』と2回思った」と強調する。
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