今年6月、改装オープンしたゴルフ場を視察するために英国を訪れたトランプ氏(写真:ロイター/アフロ)

 Brexitの悪夢の再来か――。

 英国で米大統領選の大勢が判明したのは、現地時間11月9日の午前4時頃だった。奇しくも約5カ月前、英国がEU(欧州連合)離脱=Brexit(ブレグジット)を決めた国民投票の結果が判明したのと同じ時間帯。事前の世論調査の予測から、報道のされ方、そしてブックメーカー(賭け屋)の倍率まで、ドナルド・トランプ氏の大統領当確に至るプロセスは、英国がEU離脱を決めた時とそっくりだった。

 9日午前のロンドン株式市場は、FTSE100種総合株価指数が取引開始直後に一時、2%超下落する場面もあったが、売りが一巡した後は大きな動きもなく、安定して推移している。リスク回避から金価格が急騰する動きなどもあったが、Brexitの時のようなパニック状態には陥っていない。あるロンドンの金融関係者は「今後、トランプ氏の経済政策の具体像が明らかになるまでは不透明な状況が続く可能性が高い」と言うが、その態度は落ち着いていた。金融に限らず、企業関係者も比較的冷静だ。

 その理由はもちろん、英国自体が、つい5カ月前に似たような状況を経験したからに他ならない。投票の目的こそ違うが、その流れや構図、そして世界の反応は酷似している。「5カ月前からの教訓は、過度な悲観をしても仕方がないということ」と野村インターナショナルのジョーダン・ロチェスター・FXストラテジストは言う。Brexit直後、多くのエコノミストや国際機関が英国経済に悲観的な見通しを示したが、結果的に経済は今も堅調な状態が続いている。

 むしろ、「トランプ大統領」の誕生は、EUからの離脱を進める英国にとって、思わぬ追い風となる可能性もある。

Brexitを支持したトランプ氏

 「貿易交渉の順番は、最後列に並ぶことになる」

 国民投票前の4月、訪英したオバマ大統領はこう警告し、英国がEU離脱を思いとどまるように警告している。

 一方で、トランプ氏は当時から英EU離脱支持を表明し、「離脱した際には、真っ先に貿易交渉を始めたい」と語っていた。国民投票が実施された6月23日の前日、保有するゴルフ場視察のために訪英したほか、8月にはEU離脱派の急先鋒だったナイジェル・ファラージ英国国民党(UKIP)党首を自身の演説会に招いた。少なくともEU離脱を決めた現在の英国に対する姿勢は、オバマ大統領よりもトランプ氏の方が好意的だと言える。

 現状、英国はEUとの離脱交渉を巡って駆け引きを続けている。当初、EUへの正式な離脱通告は2017年3月までに実施する予定だったが、11月3日にロンドンの高等法院が「離脱通告には議会の承認が必要」との判決を下したことから、通告時期が遅れる可能性が出てきた。

 このため、「EUよりも先に米国と貿易交渉を開始する可能性も出てきた」(野村インターナショナルのケビン・ゲイナー・マネジング・ダイレクター)との見方も出ている。