3つめは、これはまったくの主観ですけれど、土壇場に来て「ビジネスパーソンとしてのトランプ」への期待が効いたように見えることです。これは「政治のプロ」への失望感と裏腹ということですがね。

 トランプの事業家としての才能には、いろいろ疑問が付いていることは確かです。が、とにもかくにも彼は生き延びてきた。それだけの実績はあると認めて、政治の世界に染まった玄人よりも、我々にも分かる数字の世界で勝負してきたビジネスの人間にやらせてみたい、という気持ちが、逆転勝利の一押しになったのではないでしょうか。

 じゃ、もしかしたらさらに著名な経営者が立候補していたら。

長門:そうですね。金融関係者でなければあっさり勝っていたかもしれませんね。

 日米関係はどうなるのでしょう。先のお話では「トランプが大統領になったくらいで揺らぐほど、米国の政治システムは柔ではない」「米国の国力低下で、大統領ひとりの交代が世界経済を揺るがすことはできなくなっている」ということでしたが。

まずは実務者同士のコネクション構築を

長門:現実になったことには驚きましたが、その意見は変わっていません。すこし補完しますと、「国力が低下したんだから、世界のことより米国自身のことをもっと考えよう」というのがトランプの方針、といいますか、ヒラリーが勝ってもそうなったはずです。世界や日本に対する、米国の寛容さが薄れます。これは、この勝利を生み出した米国民の声ですから、誰が大統領になろうが従わざるを得ません。

 日本にとっては米国が寛容な方がありがたいわけで、対米関係は厳しいものになるのは間違いない。とはいえ、米国の政治スタッフたちは力量もあるプロですから、いきなり彼の暴論、暴挙が現実になることはありえません。

 となると、これから重要なのは、共和党政権下で実務を担うキーパーソンと、いかに信頼関係を紡ぐかということになります。民主党政権の8年間で、日本と共和党関係者の働き盛りの世代との縁が切れている可能性が高い。早急に、本音で話せるコネクションを実務者同士で作り上げねばならないでしょう。

 とにもかくにも「エリート」と「それ以外」の間に大きな溝が広がっていることが、ブレグジットに続いて、またも世界に示された選挙になりました。前回のお話にも出ましたが、エリートの象徴と目される米国の金融関係者、企業にとっては、厳しい冬が続くことになりそうです。

(文中敬称略)

(聞き手:山中 浩之)
日本郵政の長門正貢社長は、連載コラム「読書の時間はありません」の中でトランプ氏の話題を、「“トランプの家”でも米の政治スタッフが支える/2016年10月19日公開)」にて参考図書と合わせて取り上げています。特集「もしトランプが大統領になったら…」と、併せてお読みください。