「まさか」が現実になった。ドナルド・トランプ氏が第45代米国大統領に就任する。今回の背景について、米国駐在を通して現地の金融界に知己が多い、日本郵政社長・長門正貢氏に聞いた。

長門正貢(ながと・まさつぐ)1948年生まれ。1972年4月日本興業銀行入行、1976年フレッチャー法律外交大学院(国際関係論)修士取得。2001年日本興業銀行常務執行役員を経て2002年にみずほ銀行常務執行役員。2003年みずほコーポレート銀行常務執行役員。2006年6月富士重工業専務執行役員。同社専務、副社長を経て、2011年6月シティバンク銀行副会長。2012年1月同社取締役会長。2015年5月ゆうちょ銀行取締役兼代表執行役社長、2016年4月より現職。

 驚きの結果となりました。10月に世界銀行の総会で渡米されたあと、現地の金融界が大統領選挙をどう見ているかを伺ったのですが(こちら)、現地では「ヒラリーで決まりだろう」という意見が専らだったそうでしたね。

長門正貢社長(以下長門):ええ。僕も「Anything can happen.」と保留をしておいてよかったです。ラリー・サマーズ(元米財務長官)に、トランプが大統領になる可能性はどうか、3回聞いたと言いましたよね。5月は曖昧に「分からない」、9月末の来日の時は「せいぜい3割」、そして世銀総会の最終日のイベントでは「もう、その可能性はほとんどない」と言い切っていました。金融界全体を通しても、そういう雰囲気でした。

 これはつまり、米国のエスタブリッシュメント、金融界のエリートたちが、いかに大勢を見誤っていたのかを示しているのだと思います。ヒラリー・クリントンを初めとする米国の指導者層は、市井の人々が、どれほどグローバリズムに不満を持ち、富の集中、格差の拡大に怒っていたのかを測り損なっていた。「いくらなんでもトランプを大統領にするほどではないだろう」と思っていた。「いくらなんでもEU離脱を選ぶことはないだろう」と思っていた、ブレグジットとまったく同じ構図ですよね。

“予想外”だった3つのポイント

 うちの「もしトラ」担当デスクが「世論調査も、株価の動きも、ブレグジットと同じなんだよね。まさかとは思うけど…」と昨日(8日)に言っていたら、その通りになってしまいました。どちらにも、本当の世情は反映されていなかったんですね。

長門:選挙を見ていて予想外だったことが3つあります。ひとつはヒラリーの不人気振り。人気が無いとは聞いていましたがこれほどとは、日本にいるとなかなか分かりません。ビル・クリントン大統領のファーストレディとして登場したころから、オバマ政権の国務長官として今に至るまで、長く政治の世界で活躍したので、飽きられていたのでしょう。ブッシュファミリーも、一番出来がいいと言われたジェブ・ブッシュが早々に脱落したのは「もうブッシュはいい」という気分があったと思います。長期にわたって政権に関わったことに加え、振る舞いがアグレッシブだったので、何かと不満が多い現体制の象徴としても見られたでしょうね。

 もうひとつは、女性、マイノリティーへの暴言が、思っていたほどの悪影響を選挙に与えなかったように思えることです。ヒラリーが攻め口として大いに論難しましたが、たいしたダメージにならなかったようで、これは彼女の作戦ミスでしょう。理由の分析はほかの方にお任せしますが、ひとつには、選挙民にとっては「きれいごと」よりも、現状への怒りの方が勝ったということかもしれません。