トランプ氏は減税に伴う財政赤字の拡大を、規制緩和などの成長促進策によって穴埋めすると公約に掲げています。ですが、そこまでカバーできるほど成長して税収増が期待できるとは思えません。

 さらに議会との関係も読めない。あまりにも不透明度が高く、トランプ氏が大統領になると景気悪化につながるとの見方が強い。減税すれば経済は必ず好転するかと言えばそうではないのです。

歳出の中で大きな割合を占めている項目を圧縮するしかないのでしょうか。

安井:トランプ氏は「年金」や「医療保険」には手を付けないと言っています。軍事費も減らさないでしょう。

 歳出の中で大きな割合を占めるこれらの「聖域」に手を付けない限り、財政赤字の拡大は避けられません。歳出削減の対象は極めて限られた項目だけになってしまう。割合の小さい歳出項目を地道に削っても、大規模な減税をまかなうことはできないでしょう。

歩み寄りは可能か

そもそもトランプ氏は税制改革案を議会で可決させることができるのでしょうか。

安井:法案を通すためには議会の承認が必要です。ただ、議会がトランプ氏に協力的に動くかというと、疑問です。トランプ氏は移民排斥や保護主義を主張している。これらの問題を脇に置いて、減税案にだけ賛成する方向に議会が動いてくれるでしょうか。

 たとえ共和党が上院と下院の両院で過半数を獲得したとしても、現行のトランプ案を可決させるのは難しいと思います。前述の通り、共和党は独自に税制改革案をまとめており、その中心人物は下院の議長であるポール・ライアン氏です。大統領選挙戦の過程でも、トランプ氏とライアン氏が対立する場面が見られました。こうした背景がある限り、同じ共和党とはいえ、議会がトランプ案をそのまま支持するとは思えません。

どちらかが歩み寄るしかない。

安井:選挙期間中にトランプ氏は減税の提案を改定しています。旧トランプ案では10年間での減税規模が9兆5170億ドル(約990兆円)になっていました。これを6兆1503億ドル(約640兆円)へと下方修正したのです。共和党案の減税規模は3兆1009億ドル(約322兆円)。共和党案に比べて新トランプ案はまだ大きな数字ですが、トランプ氏が一方的に歩み寄ってきている。

 実現可能性を考えても、トランプ氏が歩み寄るのが妥当ですね。彼の性格上、当選後に妥協するかどうかは分かりませんが。

 トランプ氏の税制改革案の是非だけでなく、彼自身の「大統領としての器量」がどの程度なのかにも疑問符が付きます。つまり、数字をきちんとつくって、リーズナブルな規模に落とす運営ができるのかどうか。そこがすごく疑わしいのです。