オバマ大統領とトランプ氏の主張の共通点

萱野:実は今年の年明け、オバマ米大統領が一般教書演説で訴えた内容の中には、トランプ氏の主張とさほど変わらない部分があるのです。

 オバマ大統領は一般教書演説で、米国が世界の警察官となることなく、世界の安全保障について関係国と責任を分担し、限られた軍事力をより選択的に使う必要があると語っています。

 トランプ氏は当初、駐留経費を全額負担しなければ在日米軍を撤退させる、日本が核武装するのも止めないなどと主張をしていました。これは確かに過激すぎます。けれど方向性は、「責任を分担する」というオバマ大統領の考え方と変わりません。

 これはもっと大きな文脈で捉えれば、これまでの米国覇権を中心とした世界の構図そのものが変わっているということです。米国が、世界の覇権を引き受けられなくなった様子を見事に象徴している言葉でしょう。

 経済的に見ても、米国はもはや世界唯一の超大国ではありません。大国ではあるけれど、「唯一の超大国」ではない。中国の追い上げを受けているし、ロシアからの挑戦も受けていますから。2020年代には中国が米国のGDP(国内総生産)を抜いて、世界1位になるとも予測されています。米国の経済的、軍事的覇権が揺らぎつつあることは客観的な事実であり、否定はできないのです。

 そうした中で、オバマ大統領は米国が世界の警察官の役割から降りなくてはならないと語った。その主張を過激にしたのがトランプ氏です。

 米国はこれまで覇権国として、自国の利益だけでなく、世界全体の利益を考えてきました。時に横柄だと批判されることもありましたが、米国が世界全体のことを考えて行動してきたことは否定できないでしょう。その米国が世界の警察官から降りて、「アメリカ・ファースト」へ方針を転じようとしている。この流れはオバマ大統領が始めたもので、トランプ氏はそれを過激化したということです。

トランプ氏の政策は軟着陸?

つまりトランプ氏が米大統領になっても大きな流れは変わらない、と。

萱野:「アメリカ・ファースト」に向けたスピードは速くなるでしょうから、多くの人や国は戸惑うでしょうし、抵抗感を示すでしょう。けれど方向性はこれまでと変らない。いずれはそうなるものが、早まるというイメージでしょうか。

トランプ氏が大統領になれば、米国の国民感情や愛国心に変化は起こりますか。

萱野:米国民は、一層内側を向くようになるでしょう。ただ米国の政策が劇的に変わることはないと思っています。

 例えば安全保障に関しても、これまで米国と日本が続けてきた関係があるわけです。トランプ氏が大統領になっても、一旦はそれを受け継がないといけません。突然、在日米軍を撤退させることなどできないし、日本がいきなり核兵器を持つこともあり得ない。

 トランプ氏が「アメリカ・ファースト」を掲げて当選したとしても、一旦は、これまでの方向性を踏襲して、既存のエスタブリッシュメントと方向性をすり合わせていかなくてはなりません。つまりトランプ氏の登場によって火が付いた「アメリカ・ファースト」「アメリカナショナリズム」といった信条は軟着陸させられる可能性が高いのです。