雇用を守りたければ、外国企業に窓を開くべき

なぜ、これほどトランプ氏の人気が続いてきたのでしょうか。失言のため一時的に支持率が下がることはあっても、なかなか失速しません。

柳井:政治家がポピュリズムに偏っていることが、要因だと思います。本当は米国の製造業は努力をせずに、自ら廃れて行ったのです。米国の製造業が海外に工場を移転する一方で、日本の製造業が米国に工場を作ったのです。今、日本の自動車メーカーは、ほとんど米国に工場を持っています。ですから、雇用を守るというのなら、世界中の製造業に米国に来てもらうのがいいのです。こうした実態を、政治家は米国民にもっと知らせないといけない。日本の自動車メーカーを非難の対象にするのではなく、感謝しなければいけないはずです。

経済のグローバル化のあおりで、生活が苦しくなっているという思いが、米国民の間で強くなっています。そうした声を票につなげようと、トランプ氏だけでなく、クリントン候補も国内産業の保護に傾斜しています。

柳井:米政府は、もっと事実を国民に公表するべきです。現状は、国民の表面的なポピュリズムに迎合しすぎであり、国民が事実を知らされていないのです。メードインUSAの製品は米国の企業がつくっているという誤解があります。日本国内の話と同様ですが、米国でもダメな産業は、いくら保護してもダメなのです。環太平洋経済連携協定(TPP)だって、自由主義、資本主義の国が経済秩序をつくっていくことは、米国の国益になるはずなのですから、米国も妥協するべきところは妥協し、批准するべきです。

 英国はかつて衰退して、「英国病」と言われましたが、その後、世界中の企業が英国に入ってものをつくるようになりました。それで英国病から立ち直ることができたのです。しかし、今回のブレクジット(欧州連合からの離脱)で、また英国病に陥る可能性があります。

「やる気のある人を応援する国であってほしい」

10年ほど前に、ユニクロは米国に進出して、今年9月末時点で46店を展開しています。柳井さんの最初の米国体験は。

柳井:最初は大学2年生のときです。サンフランシスコに入って、グレイハウンドという長距離バスに乗って、ロサンゼルス、ヒューストン、そしてメキシコを回って、フロリダ、ニューヨークへ行きました。泊まったのはYMCAやユースホステルです。当時はジョンソン大統領が、グレイト・ソサイエティ(偉大な社会)という政策を掲げていましたが、ベトナム戦争の最中で、犯罪も多く、街を歩く人々からは緊張を感じました。サンフランシスコでは、ヒッピームーブメントがあり、街頭でいろいろなことをやっていて、すごいなと思いましたが、国全体に開放性はあまり感じませんでした。今の米国と比べると、当時はよっぽどダメな状況でしたね。

ユニクロが扱うカジュアル衣料の本場でもある米国に対しては、思い入れが強いのではないですか。事業は苦戦していて、大変なように見えますが。

柳井:大変なんですが、もう、絶対にやりますよ。米国のビジネスは。米国は世界の中心であり、米国で成功しない限り、世界で成功することはあり得ないと思っています。そして、米国はいろんな国の人が来るので、新しいアイデアが湧いてくるところです。

 ただ、「米国一国主義」みたいな風潮が出てくると、米国でやりたいなという気が、なくなってきます。せっかくいい国なのですから、これからもやる気があり、一所懸命やる人を応援してくれる国であってほしいと思いますね。