一方、ISに対するオバマ大統領の対応はひどく手ぬるいと考えているようで、特に予告空爆については批判的だ。「敵に逃亡の時間を与えるだけだ」として奇襲攻撃でISを壊滅させると主張している。
日米関係について、トランプ氏の主張にはぶれが見られる。当初は日本の製造業に奪われた雇用を取り戻すべきだと主張していた。「日本は米国に大量のクルマを売りつけている」と批判していたが、米国市場で販売されている日本車の大半が現地生産であることをトランプ氏が知らなかったとは考えにくい。雇用と日本車という分かりやすい図式を使った人気取りの発言だった可能性が高い。
また、トランプは在日米軍の駐留経費を全額負担するよう求める発言を繰り返していた。だが、多くの識者に日米同盟の意義を指摘された現在は「自動車で儲けている日本は相応の防衛負担をすべきだ」というマイルドな言い回しに変化している。
物議を醸した日本の核武装についても意見は二転三転している。4月のインタビューでは、日本は核武装することも含めて北朝鮮から自衛すべきだ、という趣旨の発言をしているが、5月には「そんなことを言った憶えはない」と否定している。
共和党との架け橋はライアン下院議長か
こうしてみると、予備選の過程でトランプ支持者を魅了した、歯に衣着せぬ毒舌はかなり抑制されている。ここで現実感のある政策を打ち出さなければ、当選に必要な浮動票、反ヒラリー票を取り込むのは難しい。この辺りの切り替えは作戦通りなのだろう。
ただし反トランプの動きは共和党内部でさえ盛り上がっている。共和党重鎮のジョン・マケイン氏をはじめ、上下両院で40人を超える共和党議員が不支持を表明している。トランプ氏が大統領になったとしても、党との関係を修復しない限り政策を進めることはできない。
もしトランプ氏が当選すれば、ポール・ライアン下院議長がトランプ氏と共和党をつなぐパイプになるのだろう。同議長はトランプ氏の女性蔑視発言が明らかになって以降、「トランプを支援しない」と表明している。だが、積極的な反トランプというわけではなく、事態を静観する構えだ。もっともトランプ氏自身は、ここに来て「ライアンの支持など必要ない」と大見えを切っている。
岩下 慶一(いわした・けいいち)
ジャーナリスト・翻訳家。ワシントン大学コミュニケーション学部修士課程修了。米国の政治・社会をテーマに執筆を行う。トランプ氏の著書『THE TRUMP 傷ついたアメリカ、最強の切り札』の翻訳も手掛けた
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