父親の財力が背景にあったにしても、押しの強さだけでここまでの仕事ができるわけがない。「破廉恥なトランプ」の大合唱の中に掻き消されがちだが、並み外れた直観、リーダーシップ、交渉力の持ち主であることは認めてもよいだろう。この辺りの緻密さは、トランプ氏が自らものした『The Art of the Deal(邦訳:トランプ自伝―不動産王にビジネスを学ぶ)』に詳述されている。「取引で禁物なのは何が何でもこれを成立させたいという素振りを見せること」「交渉相手より優位に立つために、印象操作をフル活用せよ」などの交渉術を、自身の体験を交えて語っている。

 トランプ氏は、自らの政策を述べた著書『Crippled America(邦訳:THE TRUMP - 傷ついたアメリカ、最強の切り札) 』の中で、何としてもイランとの核交渉を成立させたかったバラク・オバマ大統領の交渉は最初から失敗が確定していた、と批判している。トランプ氏から見れば、同大統領の外交は稚拙で歯がゆく見えるのだろう。問題は、不動産業界で培った交渉術が国家間の外交の場でどこまで通用するかだ。

公共投資の額はクリントン氏の2倍を主張

 多くの人々が指摘するように、トランプ氏は自身の政策案を度々変えている。共和党の指名を勝ち取るためのポピュリズム的提案だったのか、それとも単なる知識不足だったのかは不明だが、指名を獲得するまでは、過激だがシンプルで分かりやすい主張を前面に据えていた。その後、民主党の大統領候補であるヒラリー・クリントン氏との一騎打ちの段階になると、過激さをかなり軌道修正している。これもトランプ流の作戦なのかもしれない。

 まず、トランプ政策の目玉である移民政策。メキシコからの不法移民の流入を防ぐために国境に壁を作る。イスラム教徒の入国も禁じると宣言していた。壁の建設については変化がないが、最近の発言ではシリアやリビアから米国に来る難民の入国は一次的に停止し、テロに関わった過去のある国からの外国人の入国については「極めて厳しい審査を課す」を言い換えている。イスラムという言葉を削ったあたりに配慮が見られる。

  ただし、当初の強硬策を支持した層からは不満の声が上がっている。

 経済刺激策は極めて大胆だ。基本は定石通りの公共インフラ投資。道路、橋、空港などを全米規模で再建する大規模な改革をぶち上げている。トランプ氏によれば、連邦政府による1ドルの投資は1.44ドルの経済効果をもたらすという。

 公共インフラへの投資による景気刺激はクリントン氏も提案しているが、その額は5年で約5000億ドル(約51兆円)。トランプ氏は「私は少なくともその倍はかける」と言う。単純計算で1兆ドル(約102兆円)だ。この壮大な計画に対し、共和党の議員たちはとりあえず静観の構えを見せる。

 トランプ氏は税金についても大きな改革案を用意している。中流層への課税を見直し負担を軽減する一方で、高額所得者への税の控除を削減する。ここまでは無難だが、年収2万5000ドル(約260万円)以下の独身者、総収入が5万ドル(約520万円)以下の共働き家庭は無税、相続税も廃止するという「レーガン以来の大減税策」 が続く。さらに、法人税は企業規模にかかわらず所得の15%とする。こうすれば低い税率を求めて海外に移転した企業も国内に戻ってくるという計算だ。

中国には45%、メキシコには35%の輸入税を

 貿易については保護主義的な立場を取り、中国、日本、メキシコに対して一貫して強硬姿勢をとり続けている。特に対中国については「中国製品に45%の関税をかける」と発言。かねてから否定的だった北米自由貿易協定(NAFTA)についても、メキシコに対して35%の輸入関税を課すという。評論家はこの政策を「米国民にとっては100ドルの冷蔵庫が135ドルになるだけだ」と批判している。

  TPP(環太平洋経済連携協定)については、関税障壁が低くなれば米国産業が蹂躙されるとして、一貫して反対している。経済・貿易面では中国を敵視するものの、軍事的に対立する可能性は低いというのがトランプ氏の見立てだ。米国は、中国が輸出する製品の20%を購入する上客だとして「我々は中国市場に依存しているが、中国もそれ以上に米中の貿易を必要としている」と断じる。

 ロシアや中東の過激派「イスラム国(IS)」についてはどのような方針を掲げているのだろうか。トランプ氏はプーチン大統領について好意的なコメントを残している。ISについても、「ロシアと共同でISを叩くのが望ましい」と語る。