1)LGBT人材の採用・離職防止

 まずは、社員の7.6%がLGBTの可能性があるという前提に立って、自社の社員数に7.6%をかけて、潜在的なLGBTの人数を意識してみてほしい。算出した潜在的な人数と、カミングアウトしているLGBT社員の人数とを比べてみて、そこに大きな乖離がある場合には、いないのではなく、LGBTであることを言い出しにくい雰囲気があるのではないかと問うてみることが重要だ。

 「LGBTも働きやすい職場」という考え方が日本の当事者の間で注目されるようになってきたのは2010年代に入る頃からで、まだ比較的新しい観点だ。だが、働くLGBTの意識の変化は驚くべき速さで起こっていることをぜひ知ってほしい。とくに、就活生や20代〜30代のミレニアル世代では、社会の変化を受けて、どうせならカミングアウトして自分らしく働きたいと考える人たちが増えてきている。

 LGBTに関する取り組み指標である「PRIDE指標」が2016年に策定され、2年目の2017年には109社が受賞した。どんな企業が受賞しているか、受賞企業が具体的にどんな取り組みをしているのかを、たとえばこのPRIDE指標のレポートを手がかりに丹念に調べて、企業を選ぶ尺度に含めている就活生や転職志望者もいる。

 筆者のまわりにもLGBTの若者が多くいて、「LGBTフレンドリーな企業はどんなところですか」とか、「今の職場ではカミングアウトしていないが、次に転職するときには、カミングアウトする前提で会社を選びたい」というようなリアルな声が頻繁に届く。

 もちろん、自分らしく働きたいという思いは、なにも若者に限った話ではない。とはいえ、世代が上がるにつれて、カミングアウトをしない状態で働いてきた年数が長く、職場ではカミングアウトしないことが当たり前になっていると、いまさらカミングアウトするなんて考えられない、という人も多いだろう。ただ、友人などまわりでカミングアウトして働く人が増えると、影響を受けるのもたしかだ。

 LGBTの働きやすさについて真摯に取り組んでいるか、LGBTフレンドリーな風土や制度があるかという点が、13人に1人と言われるLGBT人材の採用や離職防止にすでに影響しているし、これからますますそういう時代になってくる。姿が見えづらいだけに、知らないうちにLGBT人材を逃しているリスクも潜在化しているのだ。

2)パフォーマンス向上

 LGBTの働きやすさを整えていくことは、「心理的安全性」を高めることにつながる。心理的安全性とは、職場で本来の自分らしさをさらけ出せ、安心してリスクを取れる信頼関係があるような状態のことを言う。つまり、職場で安心していられ、居場所だと感じられるかということだ。

 Googleが労働改革プロジェクトの結果として、この心理的安全性を職場に担保できるか否かが生産性向上のカギだと結論づけて注目されている。心理的安全性の観点で職場を点検してみると、LGBT社員にとって心理的安全性を下げてしまう要素は日常的にたくさんある。

 たとえば、職場でカミングアウトしているLGBTの割合は4.3%(博報堂DYホールディングス、LGBT総合研究所「職場や学校など環境に関する意識行動実態」)ととても低い。多くのLGBTが「カミングアウトしたらなにか不利益があるのではないか?」という恐れから、本来の自分をひた隠しにしている状態で働いている。

 職場でわざわざカミングアウトする必要はないのでは?と言われることもあるが、働く上での性別や、だれと家族を築いているかなどは、LGBTでなければ共有していることも多い情報だ。LGBTは隠すのがあたりまえというような現状の方が、筆者は不自然だと考えている。

 週明け月曜日の朝に、「週末、何してた?」という会話が憂鬱でたまらないという、ゲイやレズビアンの声をよく聞く。職場の飲み会で恋愛の話になり、ゲイで「彼氏」がいるのに「彼女」に置き換えてつくり話をして、嘘を積み重ねることで、いつかバレるのではないかという恐怖からストレスレベルが高い状態にあると、心理的安全性は下がってしまう。

 いわゆる「ホモネタ」など、LGBTをからかったり、いじったりするような言動が日常的にある環境もマイナスだ。言っている側に悪気がなかったとしても、こういう言動が引き金になってLGBT社員のメンタルヘルスに悪影響を及ぼすこともある。職場で差別的言動を頻繁に見聞きしているLGBTは45.8%という最新の調査結果もでている(特定非営利活動法人 虹色ダイバーシティと国際基督教大学 ジェンダー研究センター「niji VOICE 2018 〜LGBTも働きやすい職場づくり、生きやすい社会づくりのための『声』集め〜」)。

 トランスジェンダーの場合も、我慢して生まれの性別のまま働く中でさまざまな困難が生じたり、性別を移行する段階で差別や偏見にあうことも多く、課題は山積みだ。

 カミングアウトをしてもしなくても安心・安全に働ける職場環境は、心理的安全性と深く関連しており、したがってパフォーマンスにも関係するということが言える。