定職・安定収入・定期昇給が支えてきた強固な足場が崩れゆくなか、従来のような成功はどんどん難しくなってきている。その中で注目を集めているのが、「ギグ・エコノミー」と呼ばれる働き方だ。ギグ・エコノミーへの参加者が増えるにしたがって、働き方だけでなく生き方までもが変わると考えられる。ギグ・エコノミーはどこが新しいのだろうか? 働き方、成功のコツなどを解説した『ギグ・エコノミー』から一部を抜粋し、その背景と展望を紹介しよう。
ダイアン・マルケイ
米国で著名な起業家支援団体カウフマン財団のシニア・フェローのかたわらバブソン大学の非常勤講師を務め、さらにギグ・エコノミーをみずから実践している。5年前、ギグ・エコノミーがまだ知られていないときからバブソン大学でギグ・エコノミーに関するMBAの講座を開講。その後、講座はフォーブスが選ぶ全米でもっとも革新的なビジネススクール講座トップ10に選出された。(Author photo:Sharona Jacobs)

 現代社会の働き方を、終身雇用の正社員から無職までずらりと並べたとき、ギグ・エコノミーは、そのふたつに挟まれたさまざまな労働形態を幅広く含む概念です。コンサルティングや業務請負、パートやアルバイト、派遣労働、フリーランス、自営業、副業のほか、アップワークやタスクラビットといったオンラインプラットフォームを介したオンデマンド労働などが当てはまります。

最終列車はもう発車してしまった

 ギグ・エコノミーはまだ発展の初期段階ですが、すでに世の中の働き方を大きく変えようとしています。ひとつ前の世代までは、正社員としてフルタイムの職に就き、定年まで同じ会社に勤めあげるか、転職してもせいぜい1回というコースが当たり前でした。安定した昇給、手厚い福利厚生、長期勤続の末にもらえる退職金。これらを期待して人生の見通しを立てることが、今引退を迎えている世代までは可能だったのです。そんな敷かれたレールの上を走っていればよかった出世の道は、これからはきわめて狭い道になるでしょう。労働者を取り巻く環境はたった一世代のうちにがらりと変わり、安全・快適・着実に働ける定職をたっぷりと積み込んだ最終列車はもう発車してしまいました。

 わたしはバブソン大学のMBA過程で講座をもっていますが、教え子がMBAの取得後に足を踏み入れようとしている仕事の世界は、昔とはまったく様子が異なります。彼らはひとつの定職に収まろうとは考えておらず、およそ3~5年で転職を繰り返すプランを描いています。彼らは、収入が安定して増えることは想定していません。賃金の伸びは頭打ちになっているし、独立すれば高収入がねらえる一方で逆に収入が減ることもありえるからです。収入が多いに越したことはありませんが、今日の労働者は柔軟性や自主性、働く目的や意義との一貫性などを重視し、これらの要素がそろっている仕事ができるなら、収入がいくらか減ってもかまわないと考える傾向が強くあります。

 また、現在の労働者は「ひとりの従業員にひとつの職務」という伝統的な就業モデルの融通の利かなさに不満を抱くようになってきています。ギャラップ社が2014年にアメリカの従業員を対象に実施した調査によれば、自分の仕事にやりがいや愛着を感じると答えた割合は3分の1にも満たないものでした。別の調査では、アメリカ人の過半数が今の仕事に満足していない状況が10年も続いているという結果も出ています。それに対して、組織に雇われていない独立した就業者は仕事に満足してやりがいも感じている場合が多いということが複数の調査で明らかになっています。彼らはフルタイム従業員にはない自主性・柔軟性・裁量の大きさを重要視しており、その多くが高い収入を得ているのです。