英国におけるデータと民主主義をめぐる攻防では、今年3月、ケンブリッジ・アナリティカ社(以下CA社、後に破産)について暴露された大スキャンダルに端を発して以来、現在も刻々と事態が動き続けている。
個人情報大量流出問題などで揺れるフェイスブック(以下FB)のマーク・ザッカーバーグCEOに対し、フェイクニュースなどに取り組む英下院・特別委員会が行った度重なる招致・証言要請にもかかわらず、氏は結局11月27日のヒアリングを今回も拒否。自身の出席はおろか、委員会の求めたビデオ・リンクを通じた証言さえも拒んだ。

11月24日には、この問題を当初から詳報してきた英オブザーバー紙が、ザッカーバーグ氏を含むFB幹部が交わした、データとプライバシーに関する社内極秘eメールなどの資料を、特別委が入手したと報道。ザッカーバーグ氏ら幹部がCA社事件が起こる何年も前から、FB上の個人情報の取り扱いについて、どのような方針でいたのかを示す重大な資料と見られている。
この資料はFBとの法廷闘争に及んでいる第3者の米ソフトウェア会社のオーナーが所有しているものだ。オブザーバー紙によれば特別委は、この人物のロンドン出張の際、滞在先で資料の提出を迫った。しかし、裁判への影響を理由に拒否したため、議会権限で彼をホテルから議会へ「エスコート」の上、提出しなければ罰金または禁固刑の可能性があることを提示し、資料を入手したと報じている。
米CNNなどは、訴えが起こされているカリフォルニアの裁判所が、FBの要請によりこの文書を非公開にすることを認め、今年10月、報道機関数社による開示要求を却下したと報じている。これに対し特別委側は、資料は英国内で入手されたものであり、米国の法は及ばないという立場でいる。本稿執筆現在(11月27日)、特別委は文書の内容を近日公開する姿勢を崩していない。
特別委がここまでの強硬な手段を取ったのは、元CA社の内部告発者、クリストファー・ワイリー氏に対しても取られた、この問題に関するFB側の不誠実な対応が背景にあることは否めない。
「銀河英雄伝説」と言う、同名のSF小説を原作として、1980年代に制作されたアニメがある。作品中、情報戦のエキスパートが、「情報」の何たるかを若い兵士に諭すシーンがある。
いわく、世の中に流布する情報には必ずある種のベクトルがかかっている。世論を誘導するため、あるいは、願望を全うし、自らを利するために情報を流している「発信者」の存在がある、と言う趣旨の話だ。
その情報発信者が誰かわからないときは?との問いにこの中佐は、「犯罪が行われた時、最も利益を得た者が真犯人」だと返す。
トランプ米大統領の選出や英国のEU離脱、さらに、この事によって生じた米英社会の分断と混乱が、CA社の内部告発者、クリストファー・ワイリー氏の告発通り、苛烈な情報戦の産物であるならば、この結果により「利益を得た真犯人」は、誰か。
ロシアによる情報戦関与の疑いや、CA社を徹底的に追い詰めるべく、1年以上も周到な準備を行った経緯。さらに、関係者が思いもよらなかった、FBによる過剰な反発や、SNSを主戦場として繰り広げられている「情報戦争」について、引き続きワイリー氏に聞く。
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