女性蔑視、殺人予告…エスカレートする脅迫

今、ミラーさんはバッシングされていますが、どの様な事を言われているのですか?

ミラー氏:激しい反発が起こることは分かっていましたが、これほど過激な女性蔑視と差別主義に直面するとは思っていませんでした。訴訟を起こした私は「女としての立場をわきまえていない」、「有色人種の女」である私の「居場所は台所」で、「公的な場に出るべきでない」など。

 その上「斬首してやる」「人間でない奴は狩ってやる」など、あらゆる卑劣な言葉で脅迫を受けました。現在、故ジョー・コックス議員(参照:「英国の女性議員殺害が問う“憎悪扇動”の大罪」6月20日掲載)を殺害した犯人に対する裁判が始まっており(注:インタビュー時。その後11月23日に終身刑の判決)、ネット上には私が「次のコックス議員となれば良い」とまで書かれています。ソーシャルメディア上だけではなく、電話やメール、1日20~30通の手紙などがスタッフにも及んでいます。想像もしなかった、社会の最も醜い姿です。

脅迫している人たちの人物像は?

 (脅迫状の)紙質や筆跡から、送り主の教育レベルや年齢が幅広い事が分かりました。これは懸念すべき事態だと思います。離脱をめぐる議論の際もそうでしたが、社会の広範に渡って何かが解き放たれてしまったようです。

 多くの怒りや不信、嘘をつかれた気持ちには、心底共感できます。(この怒りは)英国だけではなく、世界中のものです。しかし、これでは問題の本質を解決したことにはならない。心配なのは、EU離脱や米大統領選、来年の欧州各地での首脳選挙も含め、新しい政治リーダーたちは、既に怒りで一杯の人々にした約束を果たせはしないでしょう。2、3年後、誤った期待を持たされ、またも嘘をつかれたことに気づいた人々は、一体どうなってしまうのか。とても危険な状況にあると思います。

英国や米国の事象は、何に起因すると思いますか?

ミラー氏:政治家に多くの責任があると思います。権力掌握の為には、どんなポピュリズムの波にも乗る。しかし、長期的には、社会の傷を利用することで、比べ物にならないダメージを作り出すでしょう。彼らこそが責任を負い、協調、共存こそが強さであると説かねばなりません。さらに、メディアにも責任があります。今すべては「分断」「差別」に囚われていて、メディアに載っている言葉は、分断や憎悪そのものを扇動しており、あってはならないことです。

バッシングにさらされても、訴訟を続けるのですか?

ミラー氏:自分の子供や孫たちに、このような世界で暮らして欲しくないのです。西欧社会は民主的で市民的な、そして、互いに人間的にいられる社会のため、激しく戦ってきました。このすべてが崩壊しつつあると思います。夜も眠れず、良心が咎めました。

 私は常に「ビジネスの良心」や「金はどう使われるべきか」という事について、語ってきました。大枠で言えば、私はこれまで唱えてきた事を継承し「ビジネスが行うべき事」を訴えていると思います。ビジネスも社会に積極的に関わり、誤ったことを正し、社会を癒すことに注力すべきだと考えます。

EU離脱問題の本質は民主主義の危機

恐怖を感じていますか?

ミラー氏:これは大きな訴訟で、仕事もあり、子供もいて、実は恐怖を感じる時間があまりないのです。私を動かし続けるものは、私がこれを続けなければ、誰も他にやる人がいないという思いです。「崖から飛び降りる」前には、徹底した議論が必要です。皆、離脱が崖だと言いますが、私は、英国にとっての「崖」は民主主義であり、離脱論議よりも根元的なものであると考えます。

離脱は実現すると思いますか?

ミラー氏:とても難しい問題です。ます再投票、そしてマニフェストなどが必須でしょう。人々はきちんと(離脱の意味を)理解していなかったと思います。私の懸念は、今は離脱には非常に時期が悪いという事です。世界で、欧州で、そしてロシアで起きていることを見て、きちんと段階を踏むべきです。離脱を実行するのならその意味を知る必要がありますが、現状は、誰もそれを理解してはいないと思います。

米大統領選に敗れたクリントン氏は敗北宣言で「正しいと信じる事のために戦い続けてほしい」と語りました。

ミラー氏:私も幼い頃から、信じる事のために戦って来ました。特にこの時期、女性として(声を上げることは)とても重要だと思います。女性は感情的だと言われがちですが、時に、感情に惑わされず声をあげて戦う能力が非常に高いのです。私にとっては、他者がどう感じるかよりも、正しいと信じることを実行する事の方が、重要なのです。

 前述の通り、一部大衆紙はミラー氏が「外国」生まれである事と同時に、富裕層である事も強調している。一部メディアが煽り立てる昨今の「エリート対労働者」という構図について聞くと、こうした現状には非常に失望している、とも語った。しかし、エリートと称される人々の中に、富を社会に還元せず私利私欲に走る者もおり、先進諸国で社会に歪みを作り出した事は否定できない、とも言う。ミラー氏は英ガーディアン紙とのインタビューにおいて、金融関係者が法外なボーナスを得ている現状を糾弾しており、自身はこうした制度に反対する、ともしている。

 英最高裁での審理は12月5日に開始される予定だ。

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