11月3日、ロンドンの高等法院は「EU(欧州連合)への離脱通告には議会の事前承認が必要」との判決を下した。英政府は「国王(女王)大権」を行使する事で、議会承認なしに離脱通知ができるとの見解を示していたが、高裁がこれを退けた。
判決を受けた英メイ首相は欧州首脳らとの会談などで、来年3月末までの離脱通知が覆ることはないと強調しているが、政府はこの判決に対して最高裁への上訴を発表。12月上旬に予定されている審理の結果次第では、離脱の交渉日程に多大な影響が生じる可能性もある。
今回の訴えを起こしたのはロンドンで投資ファンドを運営するジーナ・ミラー氏(51歳)らだ。ミラー氏は国民投票で残留に票を投じたが、今回はどちらの立場も取らず、また政治組織などの団体にも所属せず、一人の国民として訴訟を起こした。
判決直後より、EU離脱、および移民排除を支持する一部保守系タブロイド新聞は、英領ギアナ(現ガイアナ共和国)出身のミラー氏を、離脱手続きを阻む「外国生まれの億万長者」(ザ・サン紙、11月3日)などと書きたてた。ミラー氏は現在、殺到する脅迫電話や手紙、メールなどの影響で、警察の保護下にある。脅迫の中には「命を狙う」と堂々と宣言するものまであると言う。「激しいバッシングが起こることはわかっていた」と語るミラー氏。父親はガイアナの司法長官を務め、自らも法を学んだミラー氏の訴訟の目的は離脱の阻止ではなく、あくまで法に乗っ取った、民主的プロセスを遂行させる事だという。
ビジネスマンであるミラー氏がこの訴訟を通して守り抜きたかったものは何か。訴訟に至った経緯と信条を聞いた。
今回の訴えの内容と、なぜ訴訟を起こしたのか教えてください。
ジーナ・ミラー氏(以下ミラー氏):この訴訟は、首相と「エクゼクティブ」と呼ばれる、ごく少数の議員が議会を「素通り」し、人々の権利について判断を下す事の是非を問うものです。またEU離脱のみならず、我々の憲法システムの基本も問うています。
首相が「国王(女王)大権」と呼ばれるものを行使できるなら、それは非常に時代遅れな上、秘密主義的な権限で、密室で人々の未来や権利が決定されてしまいます。私の訴えは、これは誤りであり、我々には主権、そして議会が存在する事を主張しています。議会をバイパスするなど、どのような形でもあり得ない。EUを離脱するなら、両院での討論、投票、そして新しい法整備がなされるべきです。
政府に、人々の権利を剥奪する「国王(女王)大権」の行使を認めることは、独裁政治につながります。単にEUへメールや書簡で「離脱します」と宣言することはできず、議会での討論が必須です。
訴訟は、英国の民主主義を再確認するためのものです。英国は直接民主制ではなく、議会制民主主義です。皮肉なことに、離脱派のスローガンは「議会制民主主義・主権を取り戻す」でした。(この訴訟で)それを得たのに、彼らにとってこれが不都合だからと言って、ないがしろにする事はできません。それに、私たちの見解では、首相を含め、誰も法を超越することはできないのです。
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