デジタル広告が、政治や社会の行方を歪めるー国民投票でEU(欧州連合)離脱を決めた英国で、こんな論争が巻き起こっている。2年前の、英国の国民投票と、米大統領選挙におけるロシアの介入疑惑はしばしば報じられているが、具体的に何が起きたのか、未だ日本ではあまり知られていないのではないか。
これは、国民投票の際、離脱派公式団体「Vote Leave」が、SNS(交流サイト)などで使用したCMだ。
https://www.youtube.com/watch?v=AFqmeptq0AU
労働者階級の白人男性2人がパブで、当時開催されていた、サッカー欧州選手権を観戦している。試合結果を全て正確に当てれば、5000万ポンドもの賞金を得られる、と言うキャンペーンCMだ。
一見、スポーツくじのCMにも見える動画の内容をよく聞くと、労働者の2人はサッカーの話をしていると装いつつ「5000万ポンド?それは毎日英国がEUに渡している金額と同じだ」「トルコやアルバニアもEUに入るんだろう?」「欧州議員は年間、7万5000ポンドも稼ぎ、4万5000ポンドも経費が使えるんだ」と、さりげなくEU批判を展開している。
この中の「トルコのEU加盟」は明白な誤情報だが、繰り返しこのCMを流された有権者のどれだけが、真偽のほどを確認しただろうか。
デマの拡散だけでも大問題だが、実はこのCMにはもう一つ隠された目的が存在した。それは、このキャンペーンに参加した「白人・労働者階級の男性有権者」を特定し、離脱派に投票させることだった。
5000万ポンドもの賞金を獲得するには、キャンペーンサイトで、まず欧州選手権の試合結果予測を記入する。そして、氏名、住所、メールアドレスなどと共に、国民投票でどちらの陣営に投票するかも答える。
離脱派はこの個人情報満載のデータを基に、通常は政治に関心を示さず、投票させることが難しい層に食い込んだのだという。その目的は、当然ながら「標的」に明らかにされてはいない。
こうしたデータを基に、テレビや広告板など、公の場では見えないSNS上で、人々が個人的に大切に思う事象について、なんら審査も規制も受けず、投票を左右するようなデジタル広告が「標的」に流された、というのが疑惑の概要だ。
一国の行方を占う選挙や国民投票で、このようなデジタル戦略が許されるのか。英国でこの倫理性を問い、問題の全容解明に動いたのは、英下院・超党派議員11人で作られた、デジタル・文化・メディア・スポーツ(DCMS)特別委員会だ。
この問題に関連し、フェイスブック(以下FB)から不正に個人情報を取得していたケンブリッジ・アナリティカ社(以下CA社、のちに破産)の内部告発者を招いたヒアリングは、議会史上最多の視聴者を記録したという。
一方で、問題の渦中にあるFBのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は、度重なる委員会の招致にも関わらず、本人が出席し、証言することを拒み続けた。委員会は10月31日、11月27日にカナダ議会と合同で行われるヒアリングに、再度ザッカーバーグ氏の出席を要請した。要請文にはザッカーバーグ氏に対し、「あなたの証言は遅すぎ、急を要する」「この歴史的な機会に両議会に対し、FBがどのようにして偽情報の拡散を止め、ユーザーのデータ保護に挑むのか、説明すべきだ」と強い文言が並んだ。
文書を作成したのは、特別委員会のデーミアン・コリンズ委員長だ。政治家、そして英与党議員としてこの問題に一石を投じ、一躍時の人となったコリンズ委員長に先月、この問題の危険性と、今後の取り組みを聞いた。
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