「亡くなるべきでない人たちが、早期に亡くなるリスクはある」

 このイベントの主催者で、NHS Against Brexitの代表、マイク・ガルスワージーさんは、「こうした混乱に市民は耐えきれず、誤った方向へ向かう離脱ならば、いっそ離脱そのものを止める選択肢を要求して行きます。政府はすでに時間切れ状態にあり、アイデアを出すことができない。こんな状態ではいけません。社会に起こしている様々な現象、特にNHSへの影響を鑑み、今は一旦立ち止まるべきです」と述べた。

 英国民の命を預かるNHSが混乱のただ中にいることで、人々が生命の危機にさらされていると感じるかと問うと、「それはとても劇的な表現ですが、医療に関係することは全て命に関わることです。それまで存在した人員を補充できなければ、看護師(1人)に対する患者数の比率が上がり、亡くなるべきでない人たちが、早期に亡くなるリスクはあります」と答えた。

 ガルスワージーさんは「NHSは英国人にとって、第2次世界大戦後から互いを助け合って来た、英国人の精神そのものです。今後民営化され、離脱後の米国との貿易協定などによって、海外の民間医療企業が進出してくるならば、自分たちのNHSは破壊され、国の精神や、魂が奪われてしまう」と、抵抗感を語った。

「NHSは英国人にとって、大きな意味があります。EUやNATOなど、国際的な条約ができる以前から存続するものです。全ての人が資金を投じ、一人一人が病に倒れたなら、病院で即治療を受けることができる。民営化せずに、質の高い医療システムが提供される。このことに、私たちは誇りを持っています」


 筆者は英国に暮らし始めて13年が経つ。フリーとなり、駐在員用の保険が使えなくなったことで、NHSを利用し始めたこの5年は率直に言って、医療機関との悶着の絶えない日々でもある。

 プライベート保険で病院に通っていた頃ポリープが見つかり、摘出手術後に再発の可能性があるとのことで、医師により定期的な検査を勧められた。その間フリーになり、NHSで検査を依頼したのは2014年の秋であったが、手術にこぎつけたのは、実に去年(2017年)5月のことである。

 その間、3度の超音波検査を経て、ポリープの存在を確認したとのことで内視鏡検査に挑んだところ、「何も見当たらない」との診断を受けた。納得が行かず、しばらく時間を置いてから再検査に行ったところ、やはり超音波検査でポリープありとの診断であった。

 やっとこぎつけた手術当日、手術着に着替えて待っていると、医師の一人がカルテを片手に不思議そうな表情で「今日は、何の処置で来院したのか教えて欲しい。こちらのデータに見当たらない」と問いかけてきた。そんなはずはないので、調べてくれと頼むと、しばらくの後「今日はポリープの処置ですね」と確認された。

 手術後、全身麻酔から覚めると、今度は別の医師から「やはり何も見つからなかった」と通告された。しかし、奇妙なことに、その後GP(家庭医)に届いた病院からの手紙には「摘出手術は成功した」と明記されていた。そう明言されてしまっては確認のしようもなく、真偽の程は、未だ不明である。

 またある時は、異常な高血圧で救急隊から「即座に救急車で病院へ」と勧められて病院に行ったところ、着いた頃には血圧が下がっていたとして、救急医から「なんでもないことで救急車を使うな」と、いきなり罵られたこともある。

 さらに、激痛を伴う原因不明の頭痛で医師にかかった際は、GPが「至急」と依頼したにも関わらず、受診から3週間後に書面で「あなたのMRI検査は今から3ヶ月後」と通達された。即日、日本への帰国便を予約し、実費で脳ドックを受診した。

 現状、この5年間NHSにかかって治癒された病気は、ほぼ全くない。自分の生命力の強さと、日本から持ち帰った薬にのみ頼る日々である。

 英国在住の日本人の知人らの間では「英国で人口爆発が起こらないのは、このいい加減な医療のおかげで、適当に人口が淘汰されるからではないか」と言う、笑えない冗談が飛び交ったこともある。