ガンの検査や治療に必要な放射性物質に供給遅れの懸念

 更に、最近の主要紙がNHS関連で指摘している深刻な問題は、ガンの検査や治療に必要な放射性物質の供給の遅れである。2017年11月、上院の委員会で証言したガン専門医や放射線科医らは現状、100万人近くの患者が利用する放射線療法などが、EUの製造業者に依存すると話した。

 治療に必要な放射性同位体は少しづつ劣化するため、英国が離脱によって欧州原子力共同体・EURATOMからも脱退すれば、輸入に遅れが生じる可能性もあり、発注した物質が治療に使えなくなってしまう危険性も指摘した。

 ジェラーダ医師も懸念を示した。「がん治療において必要な薬を治療に間に合い、効果が出せるよう、税関通過させられるのでしょうか。がん治療薬は、薬によっては移動の早さが決め手となります」

 人・モノ・カネの、自由な移動がもたらした医療への恩恵を奪われる危機感を訴えたのは、ルイーズ・ジェームズさん(40歳)だ。英国西部の港湾都市・ブリストル在住のジェームズさんには3人の子供がおり、8歳のスコット君には、遺伝性の疾患がある。英国では希少疾病であり、当初は診断さえも困難だったと言う。

 てんかんの発作が毎週起きるスコット君だが、X染色体の突然変異が原因であることを突き止めたのは、英国の医療機関ではなく、イタリア・シエナの病院である。このことを可能としたのは、欧州間の医療協力ネットワークだ。

 ヨーロピアン・レファレンス・ネットワーク(ERN)は、EU内において一国では難しい希少疾病専門の診断や治療を、共同で行うことを可能にした組織だ。24のネットワークで小児がんや遺伝性肝臓疾患、心臓疾患など特定のカテゴリーを担当する。今年7月のテレグラフ紙によれば、ERNで指導的立場にあった6人の英国人専門家が、英国のEU離脱を理由にその役割を解かれたという。

 スコット君はNHSの病院で長期間治療を受け、先駆的な研究にも参加したという。母親のルイーズさんは「こうしたプロジェクトによって採取されたスコットのデータや、欧州全土の子供たちから集められたデータは、とても重要なものです。こうしたデータが、スコットの発作を止める薬を探す鍵であったとしたら、と考えます」として、離脱が英国のみならず、欧州各国の子供たちに及ぼす打撃に思いを寄せた。