移民の多くは、NHSで働く医師や看護師たち

 ジョージさんには前立腺関係の疾患があり、現在も経過観察中だ。深刻な状態ではないものの、年齢的に今後健康に何か問題が生じないとは言えない。「離脱は大きな影響をもたらすでしょう。今もすでに、待ち時間や、予約のキャンセルなどで困っています。すでに長い、手術などの待ち時間はより長くなり、離脱後に、状況は悪化するでしょう」と語った。

前立腺関連の疾患があるジョージさん。英国のEU離脱による医療への悪影響を懸念する

 講演者の一人、ロンドンの家庭医(GP)、クレア・ジェラーダさんは、「今日は、市民や専門家に、離脱は私たちの健康に甚大なリスクを及ぼすことを伝えにきました」と話した。

 ジェラーダさんの亡き父は、マルタから医療に従事するため、英国に渡った移民だった。実際、離脱派が敵視した移民の多くは、NHSで働く医師や看護師たちでもあった。

 今はまだ、患者の生死に関わるほどでも、日々の業務に支障を来しているわけでもないとジェラーダさんは語る。しかし、離脱決定による先行きの不透明さや、社会的な分断で居心地の悪さを感じた同僚など、多くの移民が、すでに英国を去る決断をし、英国で医療を学ぶ意思のある学生も、減ってしまったと言う。

 「大きな問題は労働力、研究開発、薬、そして、欧州間での医療情報伝達における協定。大きくはこの4つのリスクでしょう。離脱は私たちの健康と保健サービスに甚大なリスクを伴う、全ての人にとっての惨事です。市民はようやく、離脱によって私たちの医療サービスが被るリスクに、気付き始めていると思います」と話した。

 20年以上、NHSの心療内科医として働いていたリンダ・アンダーソンさん (72歳)は、「当時の同僚たちには移民が多く、地域の診療に非常に貢献してきました。チームにはインドやスペインの医師などがおり、多民族で構成されていました。患者にも移民がおり、自分の状況と共感してくれたり、言語の分かる医療従事者に診てもらいたがっていました」と話した。

 離脱派は、移民が英国社会に対する弊害だと主張したが、アンダーソンさんは否定する。むしろ移民スタッフの全てがNHSに忠実であり、よく働く人たちだったと振り返った。「専門的な技術もNHSに提供してくれました。私たちの国が『外国人恐怖症』と化してしまったこと、そして、欧州の一員ではなくなってしまったことが、とても悲しいです」と肩を落とした。