前例のない権力を政府に渡すことになる

 SFの世界のことのように聞こえるかもしれませんが、このままの状態で進めば、そう先の未来のことでもないでしょう。中国などでは、すでに民間企業と政府が共同で、得られる限りの市民のデータを取得しています。それはある種、犯罪を減らし、サービスをより早く提供できる、効率的な社会を作るかもしれませんし、人々はこれを歓迎するかもしれません。しかし同時に、前例のない権力を政府の手に渡すことに繋がります。

広告業界は、この事態をどう捉えていると感じますか。

バートレット氏:まず、大手プラットフォーム(SNSなど)の資金源は広告収入です。それはSNSではなく、広告企業だと捉えた方が良いでしょう。そう捉えると、彼らの使命は最初から「あなたが自分を知っているよりも、より深くあなたを理解すること」だと言うことがわかります。

 何があなたの気分を害し、怒らせたりするのかを知ることで、頭の片隅にあるスイッチを入れ、特定の商品を選ばせる。これが彼らの運営の、最優先の原則です。彼らは主に「あなた」を知ることに興味があります。こうしたプラットフォームでスキャンダルが起きて、相当数の人たちが倫理性を問いボイコットをすれば、企業は対処もするでしょう。しかし、彼らの至上命題は「あなたをどう動かすか」ということですから、大規模なデータ収集作業は、今のビジネスモデルでは止めることはできませんし、止まりません。だからこそ、規制が必要なのです。

ビジネスモデルは変えられるものでしょうか。

バートレット氏:難しい問題です。皆が広告をクリックするのをやめたり、広告ブロッカーを使い始めれば、ビジネスモデルを変えざるを得なくなるでしょう。プラットフォームに月額2ドル支払うなど、何らかの購読形態に移行したり、グーグルを利用するならば、1セント以下のほんのわずかな金額を支払う、などということです。長期的な未来には実現するかもしれず、それは社会にとって、より良いことかもしれません。

 1990年代、こうしたプラットフォームの資金をどう獲得するかという点について、熟慮の末、情報が無料で全ての人に提供されることが、最も民主的であると判断されたのです。不運なことは、この判断が広告に頼ることにつながってしまったことです。不思議なことに、誰もこんな事態を招くとは想像もしていなかった。私は、オンライン上で人々が、より多く金を払って(情報を得る)モデルに逆戻りするのではないかと予測します。

 あるいは現在、多くのスタートアップ企業が「フェイスブックやグーグルは、毎年巨額を稼いでいる。ユーザーが少額、支払いを受けるようなサービス形態に移行したらどうか」と言う動きを見せてもいます。すでに、ユーザーが使用するごとに、お金が支払われるサーチエンジンも存在します。一定数の人たちがこれを利用し始めれば、現在のビジネスモデルを破壊することが可能でしょう。

今後、例えば5年間で何も対策を講じなければ、どんな事が起こると思いますか?

バートレット氏:政治は急速に変化し、人々が5年前に不可能だと思って来たことが、既に実現し始めています。誰も、現在の政治状況を予測してはいませんでした。公開討論が、こんな悲惨な状態になり、選挙戦に関する人々の怒りや、(外国からの)介入も起きています。次の5年間には、更なる問題が巻き起こるでしょう。

 労働市場に顕著な崩壊が起きていますし、それによる憤りや怒りの高まりに、私たちは備えきれていません。より多くのデータが作られ、政治家がそれを利用し、個人を狙った広告戦略を展開するでしょうし、外国勢力からの介入は、改善するどころか悪化するでしょう。

 突然民主主義が崩壊し、無政府状態になるということではなく、独裁者が現れ「全てのことが崩壊しつつあるようだ。全てを保つために、強いリーダー、強い政府が必要だ」と発信し、「この状態を打開するために、デジタル技術が必要だ」と主張する土壌を作るでしょう。新しい権威主義の波が起こります。

 私が恐ろしいと思うのは、5年後、もしかすると人々自身がそれを望み、その主張に票を投じるかもしれない、と言う事です。安定と利便性を、崩壊と困難よりも望むかもしれません。民主主義は人々の積極的な意思によって、消滅するかもしれません。これは1930年代、民主主義が破壊的な、わかりやすい状況で壊れたこととは違います。混乱ではなく安定を約束する強固な権威主義者たちを、人々が民主的に選ぶプロセスで起こるのです。

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