「白人こそ正義だ」と唱える男性に同意しなかったため襲撃されたと聞きました。

キャロル氏:襲撃されたことで、より決意を硬くしました。自分を黙らせることはできないと周囲の人々に示し続け、私自身がポジティブだと感じることを語り続けようと。これを気に入らない人々がいたとしても、続けていきます。恐れはありませんでした。自分の信じる道を貫き、小さな変化を起こし続けようと決めました。

キャロルさん(左)は、ある日、地元のイスラム指導者の息子ダウッド・マスード氏(右)と一緒に地元サッカーチームの試合を観戦した。イスラム教徒とのサッカー観戦は、初めての体験だった。キャロル氏は、「ルートンが点を入れた時、ダウッド(マスードさん)も私も飛び上がりました。皆同じことに歓喜していると気づき、それだけで行った価値があったと思いました。共にルートンを応援する気持ちをサッカー以上のものにできないのだろうか、と。互いに『良い奴じゃないか』と思うことこそが、より大きな答えなのかもしれません」と話す。

憎悪をかき消す「Don’t Look Back In Anger」の大合唱

 相次ぐテロとヘイトクライムに苦しむ英国だが、キャロルさんの地道な活動は希望の光だ。そして、そうした小さな希望の光は、英国の大勢の人たちが共有している。

 6月3日、リバプールで「英国のイスラム化を阻止せよ」とEDLが行った120人ほどのデモに対し、地元民およそ600人が大音量でコメディ番組のテーマソングをかけ、またジョン・レノンの「イマジン」を大合唱するなどして、EDLの掛け声をかき消した

 マンチェスターでは犠牲者を悼む追悼集会で、人々が自然発生的に人気バンド・オアシスの「Don't Look Back In Anger」を大合唱した。暴力に怒りで応じない、社会の分断を起こさせないという、市民の決意をうかがわせた。

 「テロとの戦い」は、圧倒的な軍事力だけを意味しない。憎悪をあおり分断を目論む手には乗らないという、苦しいが、しかし賢い選択を市民はし続けなければならない。英国市民の多くが、社会の分断を狙う悪意に飲み込まれず、冷静な態度を取り続けられるのは、ヘイトクライムの制度的な取り締まりと同時に、キャロルさんのような人たちの地道な活動があるからだと信じてやまない。そうした辛抱強く、決意に満ちた活動には、本当に頭が下がる思いだ。

 テロやヘイトに走った若者たちに、こうした大人の声が届かなかったことは心底、残念である。しかし、キャロルさんのような大人がいる社会は、分断に負けないのではないかと希望を持たずにはいられない。同時に、「ヘイトはカッコ悪いよ」と、さらりと、しかし毅然と、未来を担う若者に、伝え続けられる大人であらねばと思う。