工場閉鎖、移民増加…・・・「ヘイト」に走る社会的背景

 こうしたヘイト行為を更に組織的にあおろうとする団体もある。その代表的存在が、トミー・ロビンソン(自称・本名スティーブン・ヤクスリー・レノン)氏(34)がかつて代表を務めていた極右団体、英防衛同盟(EDL)だ。ロビンソン氏は3月のウェストミンスターでのテロの当日、現場となった英議会周辺にいち早く乗り込み、「奴らは我々に戦争をしかけているのだ!」と反イスラム主張を展開した。

昨年2月に筆者のインタビューに応じるロビンソン氏(写真:伏見香名子、以下同)

 筆者は去年初め、ロビンソン氏に単独インタビューを行った。ロビンソン氏は「過激派だけに対抗している」と自らの活動を正当化したが、その一方で「(イスラム教は)憎悪や暴力を扇動する。(略)とにかく問題はすべてイスラム教徒のコミュニティーが元凶だ」とも語った。結局、彼がイスラム教徒排斥を主張していることは、多くの人たちに見透かされている。過激な言葉づかいとは裏腹に、カメラを向けていない時はどこかおどおどと落ち着きなく、まっすぐ目を見据えて話ができなかった様子が印象的であった。

 ロビンソン氏が極右の活動家に転じた理由は、彼が育った環境を紐解くと見えてくる。出身はロンドン近郊のルートン地区。かつては産業の町として栄え、大手自動車会社の工場などが多くの雇用を生んでいた。古くからアイルランド系やスコットランド系の白人に加え、パキスタンやバングラデシュからの移民も多く、現在では白人、そしてキリスト教徒は少数派となっている。

 2013年にロビンソン氏を特集した大手新聞テレグラフの記事によれば、彼が16歳の頃、継父が勤めていた工場の閉鎖に伴いリストラされた。自身は暴力事件を起こしたことで雇用の道を閉ざされ、並行してイスラム教徒への筋違いな憎悪を募らせた様子が記されている。

 自らの人生や生活に対する不満を、特定の人々を糾弾するエネルギーに転換する短絡的な思考は、テロに走る若者らと似ている。不満が大きいほど、その不満を代弁してくれる人物を魅力的に感じてその集団に加わり、自分と異なる考えを持つ人々の排除を目指すようになる。

 だが、ロビンソン氏らヘイト主義者やテロリストとは異なり、一線を越えず過ちに気付き、自らの人生や社会を好転させようと努力を続ける人々もいる。その一人が、かつてロビンソン氏と共にEDLで活動していたダレン・キャロルさん(52)だ。

 実はロビンソン氏は、キャロルさんの実の甥にあたる。キャロルさんは一時、ロビンソン氏と共にEDLに加わっていたが、過激化する活動に疑問を持ち、脱退。現在は社会の融和を訴えることで、分断の危機を克服しようとしている。

 前述の通り、ルートンはグローバル化やIT化など産業構造の急速な変化に取り残され、生活に不安や不満を持つ労働者が増えていた。塗装工で装飾業を営むキャロルさんも人々の不安を目の当たりにし、労働者の声を聞いて欲しいと、2009年にEDLの前身にあたる団体で、ロビンソン氏らと共に活動を始めた。

 しかし、EDLの活動が当初の目的から徐々に外れ、団体が反イスラム教を主張し始めるなど活動が過激化し始めたことに疑問を持ち、離脱した。極右団体に所属していたことで、仕事の受注が減ったばかりか、EDLからは「裏切り者」と敵視されるようになった。混沌とした生活の中でキャロルさんは数年間沈黙し、その間にイスラム教などについて学び、やがて自分なりに社会の融和を目指して声をあげることを選んだ。