文科省の前川・前事務次官のように権力から全力で打ちのめされる

信じていたのに、不正が行われていたと気づいた時、どんな気持ちになりましたか?

サニ氏:皮肉なことに、Vote Leaveの主張の大半は「民主主義」でしたが、その過程で、彼らは完全に民主主義を汚しました。(歴史上)数百万の英兵士が、世界各地でこの国の民主主義を守るために死んだのです。その崩壊に、議員や政府の秘書官までもが関わっていることは、とても恐ろしいことです。EU離脱に関する私の意見は変わりませんが、現状の英国における民主主義については完全に変わりました。

国民投票に関して言えば、結果的にはあなたの望んでいた離脱は達成できたのですから、個人攻撃を受けたり、職を失ったりしてまで、告発をする価値はあったのでしょうか。

サニ氏:それは当初からのジレンマです。プライベートを暴露され職も失い、「それ程の価値があったのか」と自問しました。個人として失えるものは、ほぼ全て失いました。生まれて初めて不安発作も経験しました。

 私はパキスタンで、銃を突きつけられ強盗にあったこともあります。「世界で最も危険な都市」とも呼ばれるカラチで15年間生き延びたのです。しかし「安全な先進国」、法治国家が目前で、嘘つきや不正を行う、法に全く敬意を払わない人たちに乗っ取られ、崩壊していると感じたことは、パキスタンで経験した恐怖とは別のものでした。

 英国も日本も、民主制度を声高に語ることのできる国であり、正義や法、互いへの優しさ、それに権利や自由が尊ばれる国であるのに、自己中心的な考え方、ヘイト、それに、なりふり構わず「勝つ」という状況が広がることは、世界にとって非常に危険なことです。

 私に起きたようなことを誰も経験してはならないと思います。他の告発者への見せしめにし、自らを守るために、政府はこういうことをするのです。日本の文部科学省の(前川喜平)前事務次官もそうです。権力層に立ち向かおうとすると、全ての力で打ちのめされます。

 私の職はそのうち、見つかるでしょう。でも、英国の民主制度は、今正されなければなりません。嘘をついて人々を欺き、批判的な人間を社会から排除し、制御しようという人々がいる国では、どこでも同じです。国の根本を失ってしまいます。

日本の元文科省事務次官の話が出ましたが、前川氏は正しいことをしたと感じますか?

サニ氏:告発は、楽しいからとか、メディアの注目を集めるためにすることではありません。信念のために、全てを手放す覚悟で行うことです。どこの国であっても、政治家や権力者は告発者に対して、完全な排除を試みます。メディアや公式発表、ネット広告・記事など全ての手段により、人々の心に、告発者の性癖、これまでに犯した過ちなどを思い起こさせ、今彼らが言っていることから目をそらそうとします。

 社会には、自分たちが大切にすべきことを守る責任があります。この情報時代、ある事象を自分で調べられないはずはありませんし、市民が無知でい続ける言い訳はできません。情報を得て、真実を探すのです。政治は常に汚いゲームですが、汚いプレイヤーである政治家に責任を負わせるのは、市民の仕事です。そして、市民を守るために働く告発者は、守られねばなりません。

日本では改憲に向けた国民投票が検討されてきました。キャンペーンに投入して良い資金の上限が明確に定められている英国の国民投票法を手本に、という声もあります。

サニ氏:国民投票では、全ての票が重みを持つのですから、完全に平等なシステムであるべきで、資金の上限は必然です。英国では改善の余地はありますが、この上限があるからこそ、米国のように、分断を生む選挙戦を避けられています。また、ターゲットを絞ったデジタル広告の国民投票での役割も注視してください。