
6月8日に実施された英国の総選挙では、議会での勢力拡大を狙ったメイ首相の「賭け」が大失敗に終わったことに注目が集まった。メイ首相は、同19日の週に予定されていた欧州連合(EU)との離脱交渉開始を間近に控え、与党保守党の政治的な基盤を盤石にするために、総選挙の早期実施に踏み切った。だが、結果は第1党の地位を死守したものの、逆に議席を減らした上に過半数を割り込んだ。
一方、野党労働党は、2010年と前回2015年の総選挙に続き、3回連続して保守党に負け、政権奪取には至らなかった。しかし当初予測の「保守圧勝」に反して30議席増の262議席獲得を果たした。過半数の326議席には遠く及ばないものの、「さえない平和活動家」のイメージが先行していた労働党コービン党首は、突然、党の英雄として、もてはやされている。
評判が地に落ちた保守党と、さえないイメージを払拭することに成功したかに見える労働党というコントラストは、なぜ、生じたのか。今回の総選挙での勝因と敗因を検証すると、英国社会に生まれつつある新たな潮流が浮かびあがる。それは、既存メディアにもソーシャルメディアに氾濫するフェイク・ニュースにも惑わされない、冷静な判断能力を持つ若者層の台頭だ。
保守党は「Out of Touch(空気が読めていない)」
メイ首相率いる保守党の敗因には、昨今のメディアやネット上などで同党について使われている「out of touch」というフレーズがしっくりくる。直訳すると「事情に疎い」「事態が把握できていない」という意味になるが、この場合は「有権者が見えていない」「人々に共感できていない」ということになろう。つまり、「空気が読めていない」と理解するのが適当だろうと思う。
振り返れば2014年のスコットランド独立を問う住民投票、去年のEU離脱を問う国民投票、そして今回の総選挙では、国民との温度差を実感できない保守党の姿が浮き彫りになった。いずれの場合も、国民のニーズよりも党内の勢力争いなど、与党政治家の都合を重視した感が否めない。
これら3つの投票でいずれも圧勝を目論んでいたにも関わらず、時の保守党党首(注:住民投票と国民投票時の党首はキャメロン前首相)が3度も民意をつかめず右往左往した様を見るにつけ、一体どこを向いて政治を行っているのか不思議に感じた。
筆者が今回の選挙期間中、最も首をかしげたのは、投票直前の6月3日に起きたロンドン橋での襲撃事件を受けた、メイ首相の発言内容である。一夜明けて首相官邸で会見をしたメイ首相は、具体的な犯人像などが全く公式発表されていない時点で、延々と今後のイスラム過激派対策について言及した。
その日、極右英国独立党(UKIP)以外の政党が、テロの犠牲者を悼み選挙キャンペーンを中止した。それにも関わらず、メイ首相の発言は、まるで降って湧いたような「テロ対策に関する選挙公約」を、急きょ官邸から発信しているかのようだった。
首相が8分間のスピーチで犠牲者に言及したのはわずか一文「犠牲者や遺族、友人のために祈りましょう」という常套句と、入院者数など事実関係を述べたものだけである。あとは半分以上の時間を割いて、具体的な社名には言及しないものの、テロの温床となるとして「大手インターネット・サービス」を批判したほか、テロ犯罪の厳罰化など今後検討する対策を並べ立てた。
[コメント投稿]記事対する自分の意見を書き込もう
記事の内容やRaiseの議論に対して、意見や見解をコメントとして書き込むことができます。記事の下部に表示されるコメント欄に書き込むとすぐに自分のコメントが表示されます。コメントに対して「返信」したり、「いいね」したりすることもできます。 詳細を読む