規制を回避し情報戦に資金を投入か

 CAのサイトには「データを利用したキャンペーン展開を行い、5大陸にまたがる100以上のキャンペーンを支援してきた。米国だけでも大統領選や議会選、州選挙における主要な役割を果たした」と明記されている。

 ワイリー氏は特別委員会において、過去のナイジェリアの選挙戦などでCAやAIQが暗躍し、勝つためなら手段を選ばない同社の実態を証言した。事実、チャンネル4によるCAの幹部に対して行われたおとり取材の内容は、衝撃に満ちている。

出所:Channel 4 News

 スリランカのある候補者の支援者に扮した「おとり」に対しある幹部は、CAが世界で最も巨大で影響力のある政治コンサルティング企業であり、「おとり」との「長期的で秘密の関係を」築きたいと電話で売り込んでいる。対立候補を徹底的に陥れるため、偽の贈賄現場を捏造してその模様を撮影する、また、女性を使ったいわゆる「ハニー・トラップ」を使うなど様々な策を、隠しカメラの前で堂々と披露した。別の幹部は、対立候補を陥れるためにはMI5やMI6の元情報部員まで投入できると述べた。

 更に、こうしたキャンペーンでは有権者の「希望や恐れ」を利用するものだと指摘し、「選挙戦を事実を持って戦ってもダメだ。つまるところ(人々の)感情が物を言う」とまで明言している。

 本稿執筆現在(4月2日)、CAはこうした数々の疑惑に関して、不正を否定している。

 もう一つ、英国で問題になっているのはVote Leave側による国民投票法違反の疑いである。英国の国民投票法では規制の少ない日本のそれとは異なり、一つの団体が広告やキャンペーンに投じて良い資金の上限が700万ポンド(約10億円)と定められている。Vote Leaveは、その上限を超えた資金投入を行ったのではないかとの疑惑だが、からくりはこうだ。

 当時、EU離脱に賛同していた若い学生などが組織したボランティアグループBeLeave(ビリーブ)へ、投票数日前になって、突然62万5000ポンド(約9300万円)もの「寄付」がVote Leaveから行われた。しかし、交通費すら自腹を切って活動していた若者らにその金が配分されることはなく、なぜかほぼ全額が、この団体を通じ、彼らと全く関わりのなかったAIQ社に流れたと、ワイリー氏とは別の、BeLeaveで活動に携わった内部告発者により指摘された。

 つまり、すでにキャンペーンに投入して良い700万ポンドを使い果たしたVote Leaveは、BeLeaveを介して、上限を超えた63万ポンド近くもの金をAIQに流したのではないか、という疑いである。

 ボランティアに参加した若者らはいずれも若く、彼らなりにEU離脱を支持する信念のもとに活動を行った。しかし彼らは現在、離脱派陣営のいわば「資金洗浄」に利用されたのではないか、との疑惑を抱いている。

 この告発者は、今でも離脱を支持しているという。しかし、その「勝利」が不正に勝ち取ったものであるならば、国民投票という民主的なプロセスを踏みにじる行為であり、あってはならないことだと告発に踏み切った。疑惑に対し、離脱運動を主導したボリス・ジョンソン外相は「馬鹿げている」と一蹴し、その他関連を指摘されているVote Leaveの元関係者らも、次々に否定している。

 疑われている資金流用について、英ブルネル大学で政治学専門のジャスティン・フィッシャー教授はニューヨーク・タイムズ紙に対し、国民投票の際の選挙管理委員会による規制が「役立たず」であったと指摘している。離脱派、残留派にかかわらず、資金を有効に使うため、複数の団体が並行して活動を行い、上限を回避したのだという。

 国民投票法により、日本よりも明確な規制が存在すると言われてきた英国ですら、今回こうした重大な不正が疑われている。日本では憲法改正を議論すると同時に、あるいはそれより以前に、まずは今回英米で相次いだ事例を教訓として、各陣営が投じることを許される資金の上限や、デジタルを含む広告に関する規制、あるいは明確なガイドラインを策定し、厳格かつ有効な国民投票法を定めることが急務ではないだろうか。