英データ分析会社が米フェイスブック上の個人情報を不正利用したとされる問題で、米大統領選に加えて、英国のEU(欧州連合)離脱を決めた国民投票との関連も疑われている。4月4日、フェイスブックは不正に取得された個人情報は最大で8700万人にのぼると発表。当初、不正取得は5000万人分の個人情報とされていた。「民主的なプロセス」が歪められるリスクに日本も無縁ではない。

英データ分析会社ケンブリッジ・アナリティカが、米フェイスブック上の5000万件にも及ぶ個人情報を不正利用したとされる問題を告発した、クリストファー・ワイリー氏(写真:AFP/アフロ)
英データ分析会社ケンブリッジ・アナリティカが、米フェイスブック上の5000万件にも及ぶ個人情報を不正利用したとされる問題を告発した、クリストファー・ワイリー氏(写真:AFP/アフロ)

 2016年、世界は2つの「民主的なプロセス」において、極右勢力の勝利に震撼した。トランプ大統領を選出した米大統領選と、EU(欧州連合)離脱を決めた英国民投票の結果である。しかし3月、これらの投票結果の正当性に対し、ここ英国では相次いで深刻な疑惑が持ち上がった。

 これら疑惑は、憲法改正における国民投票を模索している日本にとっても、決して無関係ではない。むしろ危機感を持って注視すべきスキャンダルであろう。巨額の資金とテクノロジーのノウハウ、また、個人情報へのアクセスを有する側が、選挙や国民投票などにおいて、思惑通りの政治的勝利を得る可能性を浮き彫りにしたからだ。

 この問題は、米大統領選で鍵となったといわれる英データ分析会社でリサーチ担当者として働いていた男性が告発を行い、彼の情報をもとに、調査報道に定評のある英オブザーバー紙およびガーディアン紙、英チャンネル4ニュース、米ニューヨーク・タイムズ紙が詳細を報じたものだ。告発者のクリストファー・ワイリー氏は3月27日、下院の特別委員会で、3時間半に及ぶ克明な証言を行っている。

 米英の企業や富豪、政治家など、いくつものプレイヤーが複雑に絡み合う疑惑を、ワイリー氏の証言および上記報道から読み解くと、概要はこうだ。

 まず、米大統領選では、トランプ陣営を支えた「英データ分析会社・ケンブリッジ・アナリティカ(以下CA)」が、米フェイスブック上の実に5000万人分の個人情報を不正に取得したとし、その中から、まだ候補者を決めあぐねていた層、つまり、特定の「ターゲット」を検出した(フェイスブックは4月4日、CAが不正に取得していた個人情報は最大で8700万人にのぼると発表。また、全20億人のユーザー情報が不正利用されるリスクにさらされていたことも公表した。既に対策を講じ始めているという)。

 そして、その人たちの思考や思想など、個々人の心理プロファイリングを行い、その人たち向けの「カスタマイズされた情報」を意図的にフェイスブックのタイムラインなどに流し、投票結果を左右しようと試みた、というものだ。

 同様の手法は、英国のEU離脱を問う国民投票でも、CAとの関連があるといわれるカナダの企業、AIQによって行われたと指摘されているが、フェイスブックの情報がこちらでも流用されたのかは未だ不透明だ。ただし、AIQは、離脱派陣営の団体Vote Leaveから270万ポンド(約4億600万円)に及ぶ多額の報酬を得ており、これはVote Leaveの支出の実に40%に上ると報じられた。デジタル戦略の効果を測ることは容易ではないが、Vote Leaveのキャンペーン担当者は離脱決定後、AIQなしには「(勝利は)成し得なかった」と発言したと言われている。

 告発者のワイリー氏も特別委員会での証言で、このような「不正な行為」がなければ、EU離脱決定に際し、異なる結果であった可能性に言及した。

 ワイリー氏の証言によれば、EU離脱を問う国民投票で、デジタル戦略によって有権者による実際の行動を転換させることに成功した率はおよそ5~7%であったという。離脱を問う投票では、離脱支持が52%、残留が48%と僅差だったことを考えると、効果は否定できないのではないか。

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