「キリスト教徒だってシリア難民を支援している」

 リアル・ジャンクフード・プロジェクトと並行し、このシリアン・キッチンが週1度開かれることになったのは、グリューネヴァルド牧師と、地元リーズに長年暮らしてきた、シリア人歯科医との友情が発端だった。

 グリューネヴァルド牧師は南アフリカ共和国出身であり、人種隔離政策・アパルトヘイトの中で育った。社会の分断が招く惨状を目の当たりにしたグリューネヴァルド氏は牧師となり、2年前にリーズに渡ってきた。その後も、積極的にコミュニティ間の橋渡しとなるべく、活動を続けた。

 リーズへの赴任早々、グリューネヴァルド牧師は近隣にあるユダヤ教やイスラム教の礼拝所などへ日々足を運び、持ち前の明るさで友人を増やしつつ、コミュニティの融和を図り続けてきた。キリスト教の牧師でありながら、イスラム教を蔑視・敵視する「イスラモフォビア(イスラム恐怖症)」を察知し、どう対処するか、という地元小学校での授業にも、イスラム教徒の友人と共に、定期的に参加している。

 常に笑顔でバイタリティ溢れるグリューネヴァルド牧師は「キリスト教とはそもそもそのような宗教だから」と、異なる宗教の信者を支援することの是非を意にも解さないが、牧師のイスラム教徒の友人に話を聞くと「へストン(グリューネヴァルド牧師)は特別だ。あんなに表立って熱心に支援してくれる白人キリスト教徒の牧師は、稀だと思う」と語った。

 こうした活動を通じ、グリューネヴァルド牧師が出会ったのがシリア人でイスラム教徒のファワズ・アルグファリさん(46)だ。アルグファリさんは在英歴16年の歯科医で、英国での留学経験があり、家族と共に、長くリーズに暮らしている。

 祖国、シリアの惨状に心を痛めるアルグファリさんは、これまでもボランティアで援助物資を集めるなど、難民支援活動を地元リーズで積極的に行ってきた。

 2015年の暮れのこと。アルグファリさんは、シリア軍により包囲され食料の供給が止まり、餓死者が続出していた首都ダマスカス近郊の街・マダヤの窮状を訴えようと、リーズ中心部で集会を開いた。当時はパリ市内での大規模テロが起こり、英国でもイスラム教徒に対するいわれのない偏見が頻発していた頃だ。

 「集会の日はとても寒く、シリアの現状をずっと訴えても、誰も聞いてくれなかった。疲れ果てていました」と、アルグファリさんは、当時を振り返る。

 そんな時、「シリア難民のためにいるのはイスラム教徒だけじゃないぞ!キリスト教徒だって、ここにいるぞ!」と、声を張り上げ、教会の有志を連れてやってきたのがグリューネヴァルド牧師だった。

 「そこには沢山のイスラム教徒の人たちがいましたが、キリスト教徒は私たちだけでした。私は発言の機会をもらい、マイクを持ってシリアの友人たちに『私たちはキリスト教徒だ。支援したいがどうしたら良いのか教えてほしい!』と訴えました」(グリューネヴァルド牧師)

 グリューネヴァルド牧師とアルグファリさんはこうして出会い、牧師の誘いで、アルグファリさんは初めて教会を訪れた。毎週金曜にはお茶を共にするようになり、やがて、家族ぐるみで付き合う大親友となった。

 「シリア難民をもっと支援するには、どうしたら良いだろう?」とのグリューネヴァルド牧師の問いかけに、既に難民の人たちの自立支援の目的で、別の場所でシリア料理の提供を行っていたアルグファリさんが「それなら教会で、シリア料理を出すカフェを始めたらどうか」と応えたのが、シリアン・キッチン誕生の秘話である。