「バスに乗ろうとしたら、罵られ乗車を拒否された」

 2月始めの木曜の朝、キッチンには開店時間よりも早く、シリア難民の人たちや、地元の英語教師など互いに見知らぬ人たちが集まり、それぞれに会話を始めていた。多くの難民がまだ英語を習得していない中、グリューネヴァルド牧師も、訪れたシリア人たちと簡単な英単語を駆使して、コミュニケーションを取り続けていた。

 カフェを訪れていたシリア難民男性の一人、シャディ・アルファイサルさん(39)は、戦闘でシリア西部のホムスにあった家を失い、アサド政権下の当局に何度も拘束された。配管工として働いていたアルファイサルさんは腕に負傷したこともあり、家族の安全を考えて、故郷を離れる決意をした。1年半ほど前に隣国レバノンを経て、リーズに逃れてきた。

 アルファイサルさんは「シリアでは異なる宗教や民族同士、異文化間の交流が盛んです。英国に来て、シリア人同士のコミュニティだけで固まることは、人付き合いも限定的になってしまううえに、教育上も英語を上達させる機会を失ってしまい、良くないことだと思っていました」と話す。カフェは、アルファイサルさんにとって、リーズでの楽しみの一つとなった。この教会に来れば、異なる人種の人たちと話すことができ、自分が異質な存在だと感じないという。

 他のシリア難民からは、英国に移住してからの辛い体験も聞かれた。幼い娘とカフェを訪れていたイナス・ザメルさん(25)は、2013年に戦火の激しくなった故郷ホムスを逃れ、ヨルダンで暮らしていたが、子供の将来を考え英国への移住を決めた。文化の異なる英国での暮らしに不安はあったが、教育面など娘の将来への期待の方が勝り、去年秋ごろリーズに渡ってきた。

 しかし今年1月、家路につくためバスに乗ろうとすると、いきなり運転手に罵られ、ドアを閉められた。後ろからやってきた白人にはドアを開き、イナスさんが乗ろうとすると、また怒鳴られ、乗せてはもらえなかった。言葉のわからないイナスさんは、結局1時間かけ、徒歩で帰宅した。

 教会に来ていた地元民によれば、この直前にリーズ市内で爆発物が見つかったとする騒動が起こり(のちに悪質ないたずらと判明)、イナスさんは、イスラム教徒の女性用ベールを被っていたことが乗車拒否の原因だったのかもしれない、と語った。

 「何よりも恐怖を感じました。バスの運転手があの様に攻撃的になるのなら、他の人たちは一体どんな気持ちでいるのだろう、と」と語ったイナスさんだが、そんな気持ちを、このシリアン・キッチンが和らげてくれるのだと言う。「多くの異なる人たちが一つ所に集まることのできる場では心が安らぎ、とても大切なところです」

 シリアン・キッチンは、シリア難民の人たちが、英社会の片隅で孤立を深めないよう、リーズの街に少しずつ溶けこむための憩いの場として、地域社会に定着しつつある。