日本は人道上懸念のある英国の轍を踏むな

これから武器輸出を行おうとしている日本の国民も、世界で何が起きているのか、きちんと把握する必要があるということでしょうか

ウェアリング博士:その通りです。国民が認知度を高め行動することで、政策に影響を及ぼすことは可能です。

安倍政権は武器輸出を成長戦略の一つと位置づけていると言われています。

ウェアリング博士:21、22世紀の大きな安全保障上の課題とは、気候変動問題にほかなりません。種の存続に関わる問題です。これによって戦争を含む、多岐にわたる安全保障上の問題が起こります。なぜなら、残された人類の文明を巡って、戦争が引き起こされるからです。それを阻止するためには、ゼロ・カーボン経済を設立するための技術革新が早急に必要です。安全保障対策を講じるなら、これが本来の道筋のはずで、しかも巨額の経済的恩恵ももたらすものです。

 再生可能エネルギー関連など、私たちを襲う「悲劇」を防ぐ技術の需要は、非常に大きくなるでしょう。様々なレベルにおいて、武器よりも再生可能エネルギー技術・専門技術に投資するアプローチの方が、より理にかなっていると思います。

 そもそも、日本は武器をどこへ輸出するつもりなのでしょうか。世界の武器市場は先に述べた通り縮小しています。最も大きな市場は中東で、サウジやUAEなどの湾岸諸国が主体ですが、この市場は既に英米仏に独占されており、参入は不可能です。

 英米仏が湾岸諸国の武器市場を独占している理由は、商業的なものにとどまりません。湾岸諸国は、(有事の際に)英米仏から広い意味での軍事的支援を得ることを前提にしているのです。例えば、イラクのサダム・フセイン元大統領によるクウェート侵攻と同様の事態が起きた場合、侵攻された国は英米仏軍による支援を前提としているのです。こうした何十年にもわたる関係に、日本が割り込むのは全く不可能です。

 湾岸諸国以外にどこに売ろうというのかわかりませんし、こうした国々(湾岸諸国)への市場参入は無理でしょう。理にかなった戦略とは思えません。

日本と英国は昨年末、新型空対空ミサイルの共同開発に向けた連携を確認しました。今回は空対空ミサイルですが、今後、英国とのさらなる連携により、日本が開発に関わった兵器が、人道上問題視されている国に間接的に輸出されて使われる危険性はあるのでしょうか。

ウェアリング博士:英国の武器輸出の半分は湾岸諸国向けです。英国で製造されたミサイルが湾岸に輸出されない可能性は低いでしょう。日本政府には「様々な段階を経てこの国には到達してはならない」というエンドユース(最終的な使用)に関わる非常に厳しい武器輸出規制があるかもしれませんが、単に文面だけで実際に効力を持たないとすれば、英国が(問題視される国などに)転売しないと信頼することはできません。英国が現在、イエメンであのような行動に出ているサウジに武器輸出できるということは、規制には全く意味がないということです。

つまり、日本が厳格な輸出規制をしたとしても、英国が「こちらはこちらの法に従う」とすれば、終わりということですか。

ウェアリング博士:エンドユースに関する厳格な輸出規制が実際に施行されない限りは、そういうことになります。エンドユース規制の問題は「出てしまったらそれで終わり」ということで、その後はどうすることもできません。エンドユースを真剣に捉えるなら、英国とは連携しないことです。

冷戦後は軍縮が進みましたが、アジアでは中国や北朝鮮の脅威があり武装もやむなし、という声もあります。

ウェアリング博士:国際関係上の「安全保障ジレンマ」の典型的な例ですね。「誰にも守ってもらえない。だから軍事力を構築して自国を守る」と各国が考え、互いに疑念を抱きながら軍備を強化したところに危機が起これば、衝突がエスカレートした先に戦争が起きます。

 私が理にかなうと思う解決策は、軍備を縮小し、他者が脅威と見なすような国であることをやめ、違いを解決するための対話ルートを開けておくことです。軍事力強化よりも外交努力を行うべきです。軍事力の強化は、常に非常な危険を伴うものです。

日本は70年以上にわたり、憲法で戦争放棄してきた国です。武器輸出など軍事関連における昨今の日本の変化を、どう見ていますか。

ウェアリング博士:これだけは言えると思います。日本には帝国主義の歴史があり、その歴史を受け入れ、人々はそこに一線を引いた上で、前進してきました。私は、長い帝国主義の歴史がある英国の人間ですが、その歴史の大半は非常に醜いものでした。英国は、その歴史に一線を引くことをせず、きちんと前進してもいません。世界で建設的な役割を果たすどころか、歴史にしがみついて軍事力を誇示し、劣悪な政権に武器を輸出する国です。

 英国は、イラクなどで侵略的な戦争に加担してもきました。それによって「達成」したのは、中東を不安定にし、自国民をテロの脅威にさらし、経済の不安定化を招き、道義的な批判も受け、悲惨な状況を自ら招いたことです。英国は、帝国主義の歴史から離れることができなかった失敗例です。

 しかし、帝国主義の歴史から離れてこれまで正しい道を歩んできた日本は、今までは成功例だったと思います。英国の帝国主義の遺産や、軍事主義を深く疑問視する私にとって、日本が過ちを犯そうとしていることを、悲しく思います。

 日本は、私たちと同じ轍を踏まないでください。サウジなどの政権に、武器を輸出してはなりません。道義的なコストを見てください。英国がしていることの、人的コストを見てください。これが、武器商人になるということなのです。世界最悪の惨事に、英国は深く加担しています。何千もの無辜(むこ)の人々が殺され、非常な苦痛を強いられています。武器商人であるということは、ちょっと小金を稼ぐということとはわけが違います。こうした悲惨な行為が起きた時、あなた自身の手が血に汚れるということなのです。

 以下は、2016年10月に起きた、サウジ連合軍によるイエメンの葬儀場誤爆の模様を伝える、米ザ・ニューヨーカー誌からの抜粋だ。葬儀には、当時サヌア市長だったヒラル氏も参列していた。

「建物が3度目に揺れた際、ヒラルの護衛は、ガイドシステムが標的を定め、ジグザグに動きながら向かってくる、ミサイルの尾翼にあたる風の音を聞いた。『市長、ミサイルです!』と叫んだ。ヒラルは、笑っていた。床が炎に包まれた。遠のく意識の中で、護衛は、落下する壁がヒラルを押しつぶすのを見た」
" How the U.S. Is Making the War in Yemen Worse" ザ・ニューヨーカー 1月22日号

 記事によれば市長の息子は、戦闘開始以来、連合軍が人の多く集まる集会を標的にしていたことから、葬式の延期を遺族に求めるよう勧めたというが、市長は「戦争にもモラルはある」とし、サウジは葬式を攻撃しないと答えたという。現場からは、空爆に使用された米国の防衛大手レイセオンのシリアルナンバーが記された爆弾の破片が見つかったとも伝えられている。

 米国は、世界一の武器輸出国だ。映画スター・ウォーズ最新作「最後のジェダイ」には、莫大な富を得た武器商人たちが登場する。「悪い奴らにも、良い奴らにも」武器を売って潤うのは死の商人だけ、という辛口のメッセージだ。武器商人が潤ったとしても、輸出をした国の国民は、無差別攻撃に加担するリスクを負い、最悪テロという脅威にさらされることにもなる。「あなたの手が血に染まる」というウェアリング博士の言葉が、重く響く。