武器取引の背景に王室同士の密接な関係も?

具体的には、英国とサウジはどんな関係を作ってきたのでしょうか

ウェアリング博士:サウジへの武器輸出はむしろ国家間の関係構築が主たる目的で、単純な商業行為とは見なさない方が良いでしょう。英政府は助成金を出すなど、自国の軍需産業を非常に強く支援しています。英政府の大臣らは、いわばセールスマンの役割まで果たしているのです。外交訪問で安全保障などについて話す半面、「ちなみに、この武器を買いませんか」という話をする。そのため、大きな武器契約締結の前には、首相を含む大臣級の訪問が数多く行われます。

 数年前、大きな契約締結の前にチャールズ皇太子が訪問したことが示唆するように、時には王室関係者の訪問まで伴うこともあります。こうして、2つの政府間に密接な関係が構築されるのです。(著者注:この関連は公式には否定されている)

 覚えておいていただきたいのは、サウジ側は英企業とこうした契約を締結するのではなく、英政府と行うということです。政府同士が合意し、英国の防衛省がBAEシステムズなどの企業に委託するのです。

なぜ近年、サウジへの輸出に積極的なのでしょうか

ウェアリング博士:輸出で英国の武器メーカーの収益が増えるかもしれませんし、貿易赤字を減らす一助になるかもしれません。そのために、巨額の武器輸出契約は重要なのです。しかし、より大きな戦略的な理由は、第二次世界大戦後、英国が大英帝国の終焉後も世界の大国であり続ける、という決断をしたことに起因します。世界的に軍事力を誇示することは、その目的を達成する手助けになります。そのために、国内に軍需産業を持つことが必要なのです。独自の軍需産業なくして軍事大国にはなり得ないのですから。

 こうした契約は、国内の軍需産業を維持するために必要です。英国政府として必要な戦闘機の数が50機だったとしても、200機製造し150機を輸出すれば単価は下がり経済的負担が減ります。英国の湾岸への武器輸出の重要性は、ここにあるのです。

 冷戦以降、英国の武器輸出額は、湾岸諸国以外に対しては90年頃から着実に減少傾向にありますが、湾岸諸国への輸出額は上昇しています。湾岸諸国への英国の武器輸出額は、全体のおよそ半分ほどに達しています。つまり、国内の軍需産業を維持するために、サウジやアラブ首長国連邦などへの輸出依存度が高まっているということです。世界的に見ると、湾岸地域以外への武器輸出市場は縮小していますが、湾岸諸国は大きな輸入国、世界的な輸入のリーダーになっているということです。

EU(欧州連合)離脱と積極的な武器輸出の関連はあるのでしょうか

ウェアリング博士:英国の武器輸出は軍需産業、および軍事力維持が主たる理由で、EU離脱決定の前から戦略的に深い理由がありました。金融危機後の2010年に保守党政権になると、武器輸出によってサウジとの関係を深めることがさかんに主張され、それは「アラブの春」でバーレーンの平和的なデモ活動が(サウジ軍などにより)武力鎮圧された後も続きました。

 EUは間近にある巨大な輸出市場であり、ここから離れることは、新たな市場で売れるものを探さなければならないことを意味します。主にサッチャー政権下の自由市場政策によって衰退した英国の製造業にとっては、巨額の利益を生む武器輸出は非常に大きな存在です。 ですから、英国は現在、必死になってEU市場へのアクセスが閉ざされる前に、新規海外市場を開拓しようとしています。

EU離脱を主導した保守党ジョンソン氏は現在外相ですが、高裁に提出された証拠書類の中に、サウジによる深刻な人道法違反が問題視されて武器輸出を再考していたフォックス国際貿易相に対し、輸出継続を促した文書がありましたね。

ウェアリング博士:EU離脱の有無にかかわらず、大臣らは同じ結論に達したと思います。外相と国際貿易相との間で交わされたメモは、いずれ法廷に提出されるものと承知の上だったでしょう。皆が「これは正しい判断だ」と認め合ったという証拠であり、連帯責任です。

 一連の文書の中で興味深いのは、武器輸出管理部門で高い位置にいる一人の公務員が大臣らに対し、「私の判断では、(サウジへの)武器輸出は停止した方が良いと思う」と述べたとの記述が残っていることです。この主張が無視されたことは明白です。