東京大会に「コネクション」のバトンを引き継ぎたい

「幸福に投資する」ということを日本でやろうとすると、つい、懐疑的な意見が多く出てしまうのではと心配になってしまうのですが。

ブラウン氏:でも、幸せには意味があると思うし、究極的にはみんな、他者とつながり、幸福感を感じたいと思っているのではないでしょうか。健全な、満たされた人生を送るということ。このことは、私たちを分断するすべての壁を壊すと思います。誰もが幸せで、幸福感を感じたいと思っているでしょう?そのことこそが、とても重要なことなのです。

 イギリスでは幸せを測るという試みが行われていますが、とても大切なことだと思います。特に今の私の仕事では欠かせない部分です。幸せを測るのは難しいことです。朝の気分と夜の気分、今日と昨日のそれは全く違いますし。ともかく「健全である」ということは非常に大切です。

ロンドン大会から東京に、どんなバトンをつなぎたいと思っていますか?

ブラウン氏:「コネクション」、つながりだと思います。私は、今、人々に、よりつながっていると感じています。そして「自分を信じる」ということ。とても大きなことです。私自身、人生には多くの壁があることを感じました。

 五輪の炎は希望の炎です。希望を持つということはとても大切なことで、これを引き継ぎたい。希望自体、とてもパワフルなものです。希望を増幅すること、変化を起こすこと。五輪の価値観を思い起こしてほしいのです。聖火リレーが世界をめぐるのは、五輪の価値観を共有するためだと思います。炎は、やり抜くという決意や、他者を尊重する心です。そうしたものをぜひ引き継いでもらいたいのです。

 五輪が世界をめぐることにより、大きな力が備わります。それは、どのように受け入れられるかにもよるのです。政府や組織委員会として、また、一般観衆としてでも、聖火ランナーに誰かを推薦することでも良いので、とにかく参加する。

 五輪を何か遠くの、手のとどかないものにしておくことは、簡単だと思います。聖火リレーは、日本は国内だけでやるのか、海外もつなぐのかわかりませんが、私個人にとっては、とにかくポジティブさに光を灯すもの、人々の善意を輝かせるものだと感じました。

 大きな組織が関わり、巨額の資金が投じられる大会には、もちろん問題がつきものです。この負の側面に固執し続けるか、正の部分に目を向けるのか。五輪のバックストーリー、そもそもなぜ五輪が設立されたかの歴史を紐解くと、善意のもと、人々をつなぐために、スポーツだけでなく教育などのムーブメントを視野に作られたことがわかります。

 人々をつなぐ。チームワークを作る。お互いを尊重する。フェアプレイ。そうした価値観がスポーツを通じて見える。五輪のすべてが素晴らしいと言っているわけではありません。でも、これが自分たちの国で起こっていることなのだと、五輪を受け止め、世界への扉を開く(大会を開催する)ことに大きな誇りを感じても良いと思います。

 五輪の開会式はいまやテレビ最大のイベントで、それを超えるものは次の大会にしかできません。世界に披露できる。国を形づくるものは何かを問い、そこに参加する。参加することで、変化を起こすことができると思います。

 ブラウン氏との出会いは、NHKの番組出演者を探していたリサーチ中の、パソコン画面上である。聖火トーチを片手に微笑みながら走る様子のブラウン氏の画像を見て、直感でどうしても会ってみたいと感じた。実際に会ったブラウン氏は画像の表情そのままの、純粋で明るい、感性の豊かな青年だった。今回のインタビュー中も、辛い体験について話しながら、時折瞳いっぱいに涙をため、一つひとつの言葉を丁寧に語ってくれた。

 柔らかく、暖かい雰囲気を醸し出すブラウン氏だが、演奏は動画の通り、堂々としている。番組撮影の際、ブラウン氏宅を訪れた取材班全員が演奏に息をのみ、しばし、現場が静まり返った。「Indelible Fire」など、同氏がオリンピックにインスパイアされて作った曲は、Sound Cloud(サウンドクラウド)で聴くことが可能だ。

 2012年ロンドン大会が掲げた最大の目標は「インスパイア・ア・ジェネレーション(世代を感化する)」というものだった。ブラウン氏は現在30歳だが、次世代を担う若者たちが、オリンピックを契機に自分たちの手で社会を変えていこうと一念発起し、4年後の今も継続して活動している現状に、驚かされた。しかし、個人個人がこのような試みを数年に渡り実現していくには限界もあり、こうしたNPO団体の発足などがあってこそ、活動が広がり続ける土壌になるのだとも感じた。

 後編では、ブラウン氏が所属するNPO「スピリット・オブ・2012」のトップに「幸せへの投資」について、さらに聞く。