アパレル企業にも課題があるようです。ブランドのメッセージや個性よりも、売れ筋を作って売り上げを競うことが優先されているように見えます。
渡辺:そもそも「洋服」という言葉からも分かるように、日本のアパレルは海外のものから始まっています。その結果、海外で話題になっているものを一気に取り入れるとか、トレンドやコレクションを見て、それを少し変化させた“小手先の工夫”で服を作ってきた気がします。
供給過多の時代において、みんながそれを進めていけば、より安く、より早く、アパレルを提供できる企業が勝ち残ります。内側から新しい種を蒔いて育てていかない限り、業界は成長しないでしょう。
ファッションは、どれだけ新しいことを時代にマッチさせて提案できるかというのが要です。ほかがやっていないものをどう作るのかを考えるには、専門知識や過去のアーカイブの勉強が必須です。加えて、現代の流行を的確にリサーチする力。これは地味で辛い作業の積み重ねなのです。
そうしたことを中長期的に行っていかなければ、結局は自分の首を絞めることになります。
“満足感”を買ってもらうことができるか
百貨店や商業施設の売り場に、若者は価値を見いだしていますか。
渡辺:商業施設がどこにでもある状況で、(セレクトショップの)ビームスもユナイテッドアローズも全国津々浦々にあります。その中で、東京のこの店に行こうといった思いや、友人と一緒に買い物に出かける楽しさが、相対的に減ってきていると思います。
販売員を“面倒な存在”と捉える傾向もあります。「今、流行ってますよ」とか「素敵ですね」とか、通り一辺倒のことを言う店員に、若い子たちは「ついてこないでほしい」とさえ思っている。「売りたくてしょうがない」という下心が透けて見えているのでしょうね。
販売員がその力量を発揮して、医者が処方箋を出すように、パーソナルスタイリストのような役割を果たさないとダメでしょう。店で服を買う時、顧客に応じてアドバイスしてくれたり、体型を見た上でスタイリングしてくれたりといったところまで関わって初めて、店に足を運ぶようになる。モノよりも“満足感”を買わせる販売員が出てこなければ、ただの面倒くさい存在のままなのです。
服を買うだけならば、ネットで済む。夜中でも買い物できて、うるさい販売員もいません。返品もすぐ対応してもらえる。それを乗り越えるメリットは、「自分に合っているかどうか」という価値観や指針をもらえることではないでしょうか。
ディズニーランドにはたくさんお金を払うわけです。これはそこで過ごす時間の楽しさにお金を払っている。世界観があれば、そこにはお金を払う世代なのです。だからこそ、店は「着せ替えアドベンチャー」のアトラクションになるような、エンターテイメント感を出すくらいの取り組みがちょうど良いのだと思います。
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