アパレル業界がかつてない不振にあえいでいる。大手アパレル4社の売上高は激減。店舗の閉鎖やブランドの撤退も相次いでいる。アパレル業界と歩みをともにしてきた百貨店業界も、店舗閉鎖が続き、「洋服が売れない」事態は深刻さを増している。
なぜ突如、業界は不振に見舞われたのか。経済誌「日経ビジネス」の記者が、アパレル産業を構成するサプライチェーンのすべてをくまなく取材した書籍『誰がアパレルを殺すのか』が今年5月、発売された。
業界を代表するアパレル企業や百貨店の経営者から、アパレル各社の不良在庫を買い取る在庫処分業者、売り場に立つ販売員など、幅広い関係者への取材を通して、不振の原因を探った。この1冊を読めば、アパレル産業の「今」と「未来」が鮮明に見えるはずだ。関連記事を随時連載していきます。
百貨店や大手アパレル(衣料品)企業に業界不振の理由を聞くと、判を押したように返ってくる答えがある。「若者がアパレルに興味がなくなった」「今の子はファッションにお金を使わない」――。
そうした論調に疑問を呈すのが、20年以上にわたって若者のストリートファッションを見続けてきた共立女子短期大学の渡辺明日香教授だ。ストリートファッションの定点観測に基づいて若者文化や生活デザインを研究してきた。
10代~20代の若者は今、洋服をどのように購入し、どう着こなしているのか。アパレルに対する消費の変化の背景には何があるのか。渡辺氏に聞いた。

現在、20代の若者にとって洋服やブランドはどのような存在になっているのでしょう。
渡辺明日香氏(以下、渡辺):「このブランドが好き」「ここの販売員さんが好き」といった愛着心が薄くなっているように感じます。
どのブランドの洋服を買うというより、値段やサイズの折り合いがついて、トレンドから大ハズレしなければ買うといった感じです。どの学生を見ても、タグやロゴがなかったらどのブランドか分からない。実際に、「どこで買ったの」と聞いても、ブランド名よりもまず先に「ルミネの奥で買った」といったような反応をする。洋服を買った店やブランドの名前は重要ではないのでしょう。
洋服の“賞味期限”が短いのも特徴かもしれません。食べ切れないものは買わないし、所有しておくことの気持ちよさは特段ない。タンスの中で腐らせず、買ったらすぐに着て、次の年には持ち越さない。生鮮食品のようです。
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