そんな国内アパレル産業の中でも、希望を感じるブランドや企業はありますか。

太田:どんな流行であろうと買ってもらえるというブランドはやはり強いですね。例えば、(デザイナーズブランドの)「ミナペルホネン」なんかはそう。日本の産地と直接交渉して生地を作り、製品を作っている。デザイナーの皆川明さんにはとても期待をしているし、いい仕事をしているなと感じています。

 (デザイナーの落合宏理氏が展開する)「ファセッタズム」や(デザイナーの森川マサノリ氏が展開する)「クリスチャンダダ」も、日本特有のストリート感があって、何よりマーケットのニーズに応えている気がしています。

 そもそもパリコレなども、位置付けが変わっているのです。過去はショーを見て、トレンドを取り入れて企画をするのが王道でしたが、今ではトレンドなんてないも同然です。

 黄色が流行りそうなら黄色だ、幅広なパンツならそっちへ、とやっていてはブランドの特徴は打ち出せない。トレンドに振り回されることをやってはいけない。なぜなら、そうなってしまうとそれは、「ブランド」とは言えないからです。

アパレル企業はファストファッションなどに押されて、洋服1点当たりにかけるコストを下げてきました。低価格でなければ売れないという恐怖感があるのではないでしょうか。

太田:デフレが長引いて、コストを下げなくてはいけない時代があったのは確かです。デフレ時代がファッション産業に与えた負の影響は人材の部分も大きい。低価格であることが絶対という中で、若い従業員が良いモノに触れる機会を奪ってしまったのですから。

 僕がイッセイミヤケで社長をしていた頃は、新入社員は全員、産地に行って、織機の音が聞こえるところで話をしていました。

中途半端な商売を続ければ、「死」が待つのみ

日本人の、ファッションや消費に対する考え方も変わってきているのでしょうか。

太田:「高級」という世界が、富裕層のものだけではなくなってきていると感じます。普段は食品スーパーでオーストラリア産の肉を買っている主婦でも、ここぞという時にはデパ地下で国産ブランド牛を買う。普段はチリ産のワインを飲むけれど、誕生日にはボルドー産を買う。つまり富裕層と中間層が、かつてほどきっちりとは分かれなくなってきている。

 ファストファッションだってそうです。富裕層でさえ、魅力を感じてファストファッションを買う。先日、マレーシアに行った時に聞いたのですが、富裕層で、日頃、日本の食材を使い、自宅のインテリアは高級家具ばかりなのに、洋服は(スペインのファストファッションブランドの)ZARA(ザラ)でいいという奥様が多いというのです。これには驚きました。特別な時はザラ以外を着るのでしょうが、衣食住の中で、「衣」の重要性が低くなってきているのは確実でしょう。

こうした消費者の変化によって、百貨店のあり方も変わりそうです。

太田:まずは、消費者の「日常」に応えるのか、「非日常」に応えるのかをはっきりさせる必要があります。

 繰り返しますが、チリ産のワインを飲む人と、ボルドー産を飲む人が分かれているのではありません。1人の人間が、どちらも選びうるのです。そうした時代に、百貨店は日常と非日常のどちらに応えるのかを決めず、中途半端な商売を続けていれば、待っているのは死のみです。

 売り場に行って楽しくない百貨店は、もう生き残れない。百貨店として非日常に応えるのであれば、時々ある非日常を、来店客に対して親切丁寧に、そして1円でも安く提供できるかどうかが重要だと思います。