船が沈まないと考えている人もいる

これだけの状況にありながら、大手アパレル企業を中心に変革の動きが乏しいように感じます。

軍地:消費が縮小しているのは事実ですし、消費行動の変化がパラダイムシフトを起こしています。

 我々はタイタニック号に乗っているのと同じです。甲板の上でフルコースを食べて音楽を楽しみ、少なくとも自分たちがいる間は船が沈まないと考えている人もいる。ボイラー室で働いていて、外の風景を知らないままの人もいますし、既に船を降りてほかの島にたどり着いた人もいる。

 自覚して変革している人と、古い体制とのひずみがすごく大きくなっています。今ほど沈まないチャンスは過去にいくつかあったけど、それを逃して今に至りました。

 多くのアパレル企業が、「前年対比120%、その次は140%」とか、右肩上がりに伸びていく計画を立てていると思います。でも消費者のクローゼットは服で満杯なんです。去年売れたトレンチコートを、「今年は前年比140%売りなさい」と言うのは、ある意味、消費者を馬鹿にしています。

 百貨店の良い売り場を抑えていれば、トレンチコートが毎年、春先に売れて、秋になったらニットが売れました。メーカー側は「消費者が本当に何を求めているか」と深く考えなくても、広告・キャンペーンで売れていく時代があった。消費も伸び、給料も伸び、みんなが明日の幸福を信じていた時代だったからです。

 東日本大震災が起こったとき、今日あると思った幸せが目に見えなくなるという経験をしました。モノを持つよりも心の充足を求める人が増えると、買わなくていいものを作り続けている人は残れなくなります。

 「前年対比増」という考え方は消費者の心を考えていない。株式上場していると、どうしても昨年より伸びていると仮想でも数字を作らないといけないのは理解できます。でも、その営業努力は消費者というより、社内や業界に向けての努力に終わっているように見えます。

若手デザイナーを育成するべきだった

軍地:ファッションは直訳すると「流行」ですが、大手アパレル企業は本質的には「流通」を作ってきたのだと思います。そして、それがいずれ淘汰されるのは誰の目にも明らかだったはずです。

 ファストファッションが登場してきた時に、大手アパレルは原価率を大きく下げました。商品の価値が落ち、消化率も落ち、在庫が積み上がって赤字になったのが、大手アパレルの不振の構図です。

 不振の起点となる瞬間を見えなかったし、気付いた時には体質として小ロット高品質に急展開はできませんでした。同情もしますが、業績不振と言われるアパレル会社は消費者を置いてきぼりにしていたのではないでしょうか。上司を見て服を作っている感じですね。それは服ではありません。

 また若手デザイナーの育成・支援などもほとんどしてきませんでした。本来は大手アパレル企業がインキュベーターにならなければいけなかったのに。

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