「買いたい服がない、わけがない」
SNS(交流サイト)を通じて積極的に情報発信しています。ご自分の名前を付けたブランド「ケイスケオクノヤ」も、SNSだけで受注販売する方法を取っています。どうしてこのビジネスモデルに至ったのですか。
奥ノ谷:(家業である)今の会社に入って間もなく、前の会社の時の調子で、新しいブランドを立ち上げました。無名のブランドなので、お客さんは来ません。閑古鳥が鳴いている状況が2年ぐらい続きました。
そんな時期でも展示会に来てくれる人が何人かいて、素直に理由を聞いてみたら、「奥ノ谷のことが好きだから」と言われました。そこで、自分を広告塔にして、SNSなどを使ってどんどん発信していくやり方に変えました。
「この人から商品を買いたい」という需要はあると思います。
先ほど、お客さんはブランド名や会社名は覚えていないと言いましたが、そのお店にいる店長や店員の顔と名前は覚えていますから。僕自身について言えば、「短パン社長から商品を買いたい」という人がいるわけです。日経ビジネスの昨年秋のアパレル特集は「買いたい服がない」というタイトルでしたが、僕自身は「買いたい服がない、わけがない」と考えています。
ケイスケオクノヤで短パンを作ったとき、「売れなかったら、余った生地は別ブランドでパーカーに転用しよう」と考えていましたが、1日で157枚が完売しました。
この時、「消費者は『この人から商品を買いたい』という感覚を持っている」と確信しました。現在は1カ月半に1回程度、新商品を出していますが、受注生産なので在庫は当然ゼロ。店舗維持費も不要。原価率が45%程度なので、素材もかなり良いものを使って国内生産できます。
でも、僕が会社を継いだ時にいきなりこのやり方を始めても、うまくいかなかったでしょうね。苦しんだ過程があって、今があるんだと思います。
自分自身がそういう経験をしているので、うちの商品を扱ってもらっているお店には「何も買わなくても、週1回、店に来てくれるお客さんはいますか」といつも聞いています。そういうお客さんを増やすのが重要だと思います。ただお洒落なイメージを打ち出しているだけではお客さんには選ばれません。
でも、僕の真似をしてSNSで発信しろと言っているわけではないんです。
例えば、インターネット販売もSNSもやってないのに、繁盛しているお店が九州にあります。そのお店を見ると、週1回、開店2時間前にスタッフ全員が集まって、お客さんにお礼の手紙を書いているんです。大抵のお店はそれを怠ります。結局、人間ってそういうところに共感するんでしょうね。
Powered by リゾーム?