前回の記事では宇佐美健一氏が起業、経営者、そして大学教授の体験を通して、新規事業の立ち上げと継続に必要な条件と感じることをインタビュー形式で語ってもらった。今回は、そうした経験を通して自らまとめた“宇佐美メソッド”について紹介する。新規事業についての論文や考察は多々あるが、自らの経営体験と教員体験を踏まえたうえでの理論構築は珍しく、実践を重視する点に特徴がある。

 他の企業に真似されることなく、長期で価値を生み出し続けることができる――。

 光産業創成大学院大学、特任教授の宇佐美健一氏は長年、起業や新規事業の立ち上げに関わる中で、成功の条件をそのように定めるようになった。加えて教職に就いてから、成功に導くための新規事業の進め方を、独自の“宇佐美メソッド”としてまとめている。

「消費者に聞け」では長続きしない

 そのメソッドは通常の発想とは一味違う。

 一般に新規事業を立ち上げる際は、まず商品やサービスのアイデアから考える。主眼となるのは、新商品やサービスによって「今ある問題をどう解決するか」ということだ。そのために使われるのが消費者調査。聞き取りやアンケートの形で、既存の商品に足りない点を探したり、日常生活で困っていることを聞いたりして、新商品やサービスを考案する場合も多い。

 宇佐美氏はそこに一定の意義を認めながらも、「問題解決型の商品は、すぐに模倣される可能性も高い」と指摘する。顧客が口にする困りごとはニーズが顕在化しているため、他者もすぐに参入できるというわけだ。ライバルが増えると、価格競争に巻き込まれる。

宇佐美 健一(うさみ・けんいち)氏
1953年1月生まれ。78年、慶應義塾大学経済学部修士課程修了。マーケティング・トレジャー社長と光産業創成大学院大学特任教授を兼任している。

 自社の商品やサービスで長期に価値を保つには、「潜在的な欲求」を「ストーリー」として掘り起こすことが大切と、宇佐美氏は強調する。

 例えば、自動車を考えてみると、一般には技術に基づいたスピード性能や、車両のデザインや安定性など商品の機能を高めることが新車開発の基本となる。クルマは運転するものという発想が根本にあるためだ。だが宇佐美氏はこれを「シーン」から始めようと提唱する。つまりクルマは運転して、移動する時だけに使うとは限らない。日々の生活の中で、1人になりたい時にじっと過ごす空間にもなりえる。長く好きな音楽を車内で聞くこともできる。

 さらにドラえもんの「どこでもドア」から発想すると、「移動があっという間に感じること」が最も大切な特徴になる。ドライバーがそう感じるためには、ドライブと車内が快適と感じるエンターテインメント性を盛り込むことが欠かせない。

 宇佐美氏は「顧客の潜在欲求に応える商品を開発しようとすると、製品の品質や機能はもちろん、さらなる新しい価値を加えることが大切になる。商品コンセプトから新しい価値まですべてを言葉にしてから、具体的なチーム編成や技術の導入など進め方を描いていく」と語る。アイデアを言葉に置き換えて、そこから開発の進め方を具体的なステップを追ってチャート化していく。この開発のストーリー作りこそが、“宇佐美メソッド”の実践である。