コンテストで評価したベンチャーとリアルに事業を始める

 家計簿アプリを開発したマネーフォワード社は、『豊洲の港から』第1回の最優秀賞を受賞した。NTTデータの『アンサー』(ANSER)という900以上の金融機関が利用しているオンラインバンキングのプラットフォームを、フィンテック企業が活用できるようにするソフトウェアの接続仕様(API)を創る提案が評価された。これは現在の「オープンAPI」(銀行と外部の事業者との間の安全なデータ連携を可能にする取り組み)ブームの先駆けにもなった。

 また、第2回で優秀賞を受賞したサッソー社は、NTTデータの電気事業者向けIoTプラットフォーム『エコノ・クレア』上で、電力使用量のデータ分析サービスを提供している。両社の分析ノウハウを組み合わせて、消費電力削減につながる、より高度なソリューションを可能にしている。エコノ・クレアによって、個々の電気製品が消費している電力をリアルタイム分析できる。

 残間氏によると、『豊洲の港から』での受賞は事業創発の「始まり」に過ぎない。その後、社内の受け皿である事業部において、時間をかけて技術の実装とビジネスモデルの構築に取り組むからこそ、新しいプラットフォームビジネスが生まれる。過去5年間、国内外のベンチャー企業と協力して十数件のビジネスが創発されているという。

金融機関とベンチャー企業をつなぐ「緩衝材」になる

 NTTデータがフィンテックを自社事業に取り込む場合、大きな障壁がある。それは、フィンテックの開発手法が同社の仕事のやり方と異なることである。ベンチャー企業は、実験的にアプリケーションを開発してリリースし、ユーザーの反応を見て素早く改良を続けるという手法を取る。じっくりと時間をかけて堅牢なシステムを作るNTTデータと正反対である。

 ところが、フィンテック・サービスを開発するには、ベンチャー企業の技術やアイデアを取り込むことが不可欠である。開発ペースの違いを理由に、ベンチャー企業との提携に反対する意見が社内にあったが、「競争に対処しないと長期的には生き残れない」という意見が勝った。

 また、ベンチャー企業がフィンテックのアプリケーションを開発する場合、金融機関のシステムともつながらなければならないという問題がある。アプリは多数の金融機関とつながるからこそ価値があり、少数の銀行とだけ連結しても、サービスを普及させることはできない。

 しかし、金融機関のセキュリティ基準は特に厳しく、リスク管理が未熟なベンチャー企業との連結に慎重である。ベンチャー企業を通じて自社の顧客情報が漏れたり、ウイルス感染が起きたりしたら、取り返しがつかない。

 通常、両者のシステム連結は困難だが、NTTデータが間に入って「緩衝材」になれば、スムースに進めることができる。NTTデータのプラットフォームには数多くの金融機関が参加しているので、ここにベンチャー企業を参加させれば、上記の問題を解決できる。

●目次

  • はじめに トヨタが再びオープンイノベーションに挑む
  • 第0章 ジャンプするための条件
  • 第1章 組織をオープンにする
  • 第2章 知のダイバーシティを推進する
  • 第3章 あえてダブルスタンダードで進む
  • 第4章 プラットフォームを進化させる
  • 第5章 事業出口を柔軟に探す

●取り上げている企業
味の素、コニカミノルタ、コマツ、サントリー、スリーエム、セブン-イレブン、ソニー、ダイキン工業、大和ハウス工業、東レ、トヨタ自動車、日東電工、日立製作所、富士フイルム、ホンダ、三井化学、リクルート、DIC、NTTデータ、JR九州

2018年9月 日経BP社刊 尾崎弘之(著) 定価:1600円+税