「起業家精神」に実体を持たせる仕組み

 同社の企業文化は、「起業家精神」「圧倒的な当事者意識」「個の可能性に期待し合う場」で構成される。起業家精神が企業文化として根付くことが仕組み化されている。

 近年、起業家精神を社員に求める企業が増えたが、ブランドに自信がある企業は従来こういうことは言わなかった。また、建前上、終身雇用を前提としているので、社員が本当に「起業」することは求めておらず、あくまで「精神論」のことが多い。

 しかしながら、「リクルートの起業家精神」は一風変わっており、社員の独立・起業を本気で応援する。個人的に部下の背中を積極的に押す上司もいる。起業家精神は言葉だけでなく、人事評価・報酬にも反映されており、入社後一定期間を経ると退職時に「支援金」が支払われ、起業資金に充てることもできる。

 大学生が就活面接に来ると、「この学生は主体的な思考をしているか」ということを徹底的に掘り下げて聞く。それに対し、リクルートOBで不動産情報サービスのライフル社を創業した井上高志氏のように「入社後3年以内に独立します」と明言する学生もいる。このような、強い意志を持った学生をリクルートは評価する。

 入社後に社員が求められることも変わらない。「起業家精神」「圧倒的な当事者意識」とは、「何をしたいか」「どのような方法でしたいことを実現するか」を常に自問することである。若手社員は「そんなこと上司が決めることでしょう」という言い訳が許されない。大きな仕事を任せられたら、「何を」「どのように」するつもりか上司に問われ続け、常に答えを用意しなければならない。これら企業文化はリクルートのDNAになっている。

 ただ、同社も企業体なので、配属される部署や職種によって仕事内容が決まる。社員が「起業家精神」「圧倒的な当事者意識」を持ってやりたいと思ったテーマが、所属する部署や職種で実現することが難しいケースも起こりうる。そこで、『キャリア・ウエブ制度』という、社員が自らの意志で部署や職種を異動できる機会が用意されている。

 キャリア・ウエブ制度では、各事業部がイントラネットで「社内求人情報」をアップし、社員は自由に応募できる。今の仕事を続けたくない場合、自ら手を挙げて別の部署に異動できるわけだ。社員は年1回、異動したい部署に面接を申し出ることができ、双方の希望が合えばマッチングが成立する。驚くことに、上司には部下の異動に対する拒否権がない。

 人事部の異動命令を拒否できないサラリーマンから見れば、信じられないような、羨ましい話である。こういうやり方には「社内の統制が取れなくなる」と言って反対する人事部長が世の中の大半であろう。しかし、手を挙げた社員は異動先で評価されるよう努力が必要で、異動の結果を人のせいにできない。また、マネジャーには、部門の事業を進化させないと、求人への応募者がいなくなるという逆のプレッシャーがある。マッチングをうまく管理すれば、社内の統制も維持できる。